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【「弁護士の就職と転職」note】就活生との対話:転職又は独立を見越したファーストキャリア選択

就活生
「別に事務所でパートナーになることを目指さなくとも、大手事務所や外資系事務所に入る意味はありますよね?」

西田
「確かに、企業法務系事務所の転職市場においても、大手事務所や外資系事務所にいれば、中途採用の書類選考は通過しやすいと思う。」

就活生
「企業法務系事務所だけですか?」

西田
「あ、いや、一般民事系の事務所の中途採用選考においても、確かに、大手事務所や外資系事務所の経歴はプラスになりそうだね。もっとも『うちはそんなに給料は支払えない』と引かれてしまうリスクはあるけど。」

就活生
「西田先生は、一般民事系の事務所の中途採用はあまり担当されていないのですか?」

西田
「過払金返還請求で荒稼ぎして巨大化した先を別にすれば、普通の一般民事系の事務所は、イソ弁の採用にエージェントを利用するまでのコストはかけないことが多いと思うな。」

就活生
「あ、エージェント報酬の相場は『初年度年俸の30%の成功報酬』と書いていましたね。」

西田
「そう。一般民事系で、過払系ではなく、普通の事務所は、弁護士会のひまわり求人や知り合いのツテでの採用が中心だと思う。」

就活生
「一般民事系は給料が低いのですか?」

西田
「ええと、年俸ベースで多額の給与を約束できる先は少ないと思う。偶々、大きい事件が終わって成功報酬がドンと入れば、ボーナスをもらえることもあるけど、コミットしてもらえるのは、まともな事務所でも、月額ベースで、30万円台から40万円台くらいじゃないかな。月額50万円をコミットしてくれたら、かなり多い方だと思う。」

就活生
「それは上がっていくのですか?」

西田
「年次が上がることで月額ベースで数万円の昇給はあっても、やっぱりそれほどは上がらないと思う。月額50万円くらいが最高値であるのは年次が上がっても変わらないのではないかな。一般民事系では、事務所からの固定給を増やすのではなく、個人受任した事件の報酬で収入を増やしていくイメージかな。」

就活生
「経験を積んでスキルを磨いても給料が上がらないのはおかしくないですか?」

西田
「一般民事系は、基本的には、旧弁護士会の報酬規程に従って、着手金と報酬金の形式でお客さんにチャージしている。別に1年生が担当しても、3年生が担当しても弁護士報酬は変わらない。『年次が上がれば、弁護士としてのスキルが上がるので、リーガルサービスの価値も上がる』というのは、企業法務系事務所において年次に応じてアワリーレートが上がるシステムを採用して初めて成り立つことだと思う。」

就活生
「でも、給料が上がらなくて個人事件を増やすだけだったら、事務所にいる意味がなくなってくるのではないですか?」

西田
「そうだね。だから、一般民事系は、基本的には、独立するキャリアプランが基本型で、事務所に残るとしても、経費を負担する形のパートナーになる、というのが自然だよね。」

就活生
「将来、一般民事系で独立することを見越しても、ファーストキャリアに大手事務所や外資系事務所を選んでもいいですか?」

西田
「ぼくは良いと思っているよ。例えば、労働事件を労働者側で受けるにも、使用者側の経験が生きると思うし、消費者側で企業を訴えるにしても、企業側の意思決定の仕組みを知っておくことは役に立つと思う。ただ、大手や外資系から、いきなり一般民事で独立するのはギャップが大きいので、一旦、一般民事もやっている事務所に転職するワンクッションを挟むことをお勧めしている。」

就活生
「独立する前に転職するのですか?」

西田
「大手や外資系のアソシエイトとして働いても、営業やクライアントに報酬を請求する仕事のイメージが湧かないでしょ。だから、一旦、中小規模の事務所で、経営面も含めて事務所を理解しておいた方がよいと思う。」

就活生
「無駄な転職を挟んで経歴は傷付かないですか?」

西田
「経歴が綺麗かどうかは、転職では審査されることも多いけど、独立したら、クライアントが気にするのは弁護士としての腕と費用のコスパなので、転職歴が多いのが不利になることはないと思うけど。」

就活生
「独立してから、やっぱり、事務所や企業に就職することもあるのですか?」

西田
「あることはあるけど、やはり『独立したけど失敗しました』感は出ちゃうよね。そういう意味でも、完全に独立するよりも、小さい事務所に雇われておいた方がいいかも。」

就活生
「独立して失敗した人は中途採用で不利ですか?」

西田
「う〜ん、一般論としては、『独立した人は部下として使いにくい』と疑われてしまう傾向はあると思う。指揮命令を受けずに自分で判断して仕事するようになっちゃった人、それで失敗した人を、再び部下として迎え入れても、あんまりこちらの思い通りに働いてくれるイメージが湧かないかも。」

就活生
「優秀でもですか?」

西田
「優秀な就活生の価値が高い、というのは、大手事務所とか外資系の企業法務系のトップクラスの事務所だけに通用する価値観かも。普通の事務所は『優秀なアソシエイト』よりも『使い勝手がいいイソ弁』を欲しいと思うから。」

就活生
「でも、優秀な弁護士でないと良いリーガルサービスは提供できないですよね?」

西田
「リーガルサービスの質の高さを唯一の指標として経営を成り立たせているのは、企業法務系のトップクラスだけだと思う。一般民事系は、標準的なクオリティを備えられたら、あとは、依頼者に寄り添う姿勢とかわかりやすさとか、リーズナブルな料金体系を売りにすることの方が多いのではないかな。」

就活生
「でも、リーガルサービスの質を高めた方がいいですよね?」

西田
「一般民事系のボス弁だったら『そんなに優秀なイソ弁だったら、いつまでも自分の元にはいないで、すぐに出て行ってしまう』と予感するんじゃないかな。いずれにせよ、一般民事系の事務所は『イソ弁はいずれ出て行ってもしょうがない』と思っていると思うよ。」

就活生
「インハウスではどうですか?」

西田
「会社は、優秀な人材に来てもらいたいと思っていると思うよ。だから、ファーストキャリアとして大手や外資系の事務所に入っておくのは、将来、インハウスへの転身を想定しても便利だと思う。」

就活生
「外資系企業は、外資系事務所にいる経歴の方が採用されやすいですか?」

西田
「確かに、採用選考に、本社の欧米の弁護士が関与する場合には、欧米でも名前が通っている事務所に所属していると優秀さを理解してもらいやすいかもしれないね。実際、外資系事務所にいる方が、英会話は流暢になるだろうし。ただ、インハウスに転向するタイミングは考慮が必要かも。できれば、米国に留学して米国法資格を取っておいた方が外資系企業で生きていくには安心なので。」

就活生
「あ、西田先生は、外資系事務所が、最近、留学制度を縮小している、と書いていましたね。」

西田
「うん。新卒採用をしている外資系事務所ならば、留学制度を一応は準備していると思うけど、誰でも留学に行けるというわけではなく、『留学させるという投資』に見合うだけの人材かどうかは選別されることもある。大手事務所の中でも、留学中の経済的支援について、帰国後に事務所に復帰して一定期間働かなければ返還しろ、という約束をさせるところもあるよね。」

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