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法律事務所への志望動機の起案

企業への就活であれば、志望動機は、
Step1:なぜ、この業界を選んだのか?
Step2:この業界内で、なぜ、この会社を選んだのか?
という二段階で構成される。

これを、法律事務所への応募に当てはめると、
Step1:なぜ、弁護士という職業を選んだのか?
Step2:なぜ、数ある法律事務所の中で、この事務所を選んだのか?
という風になる。

この点、もし、
― 自分が幼い頃に、家族の事情(金銭トラブルや離婚等)で弁護士に世話になったとか、弁護士が活躍するテレビドラマや映画を見て弁護士という職業に憧れた、
というエピソードがあれば、Step1はクリアできそうである。

でも、Step2となると、これはかなり難しい。実際のところ、「絶対にこの事務所でなければならない!」というまでの強い理由を抱いている就活生は普通いない。大手事務所への応募も「なんとなくカッコ良さそう」という程度に過ぎないことが多い。

そのような場合に、志望動機の解像度を上げるために用いられるのが「他との比較」である。

つまり、大手事務所を志望する場合には、
― なぜ、中小事務所でなく、大手事務所なのか?
を考えることになる。ここでは、たとえば、
― 企業の経済取引は国際的になり、複雑化しており、高度なリーガルリスクに晒されている。そのようなクライアント企業のニーズに応えるためには、リーガルサービスの提供にも、より高い専門性が求められる。それには、大規模な事務所でノウハウを蓄積することが有効であると考えたから、
などと回答される。逆に、中小事務所を志望する場合には、
― 弁護士という仕事の醍醐味は、クライアントから自分という人間を信頼して事件を依頼されることにあると思う。事務所の看板がなくとも、自分個人として、クライアントからの信頼を得られるような弁護士になりたい、
などの回答がありうる。

そして、ここから先に、もし、「大手事務所の中でなぜこの事務所を選んだのか?」という問いに対する回答をしなければならないとすれば、他の大手事務所との比較が求められることになる。たとえば、
― アンダーソン毛利友常であれば、「外国クライアントから信頼されている」とか、
ー 森・濱田松本であれば、「株主総会対応とか訴訟にも強い」とか、
― 長島・大野・常松であれば、「リーガルテックにも力を入れている」とか、
というのが思い浮かぶ(西村あさひの場合は「すべての就活生はうちに来たがるのは当然」と思っているフシがあるので、事務所を選んだ理由はいらないかもしれない。むしろ、グループ別採用がなされているので、当該プラクティスと他分野との比較が重要かも)。

ただ、大手事務所間の新卒採用では、
― 志望動機が高い奴に内定を出す、
というよりも、
― スペックが高い優秀そうな奴は、他の大手からも内定が出るので、他の大手に奪われないようにこちらから勧誘して囲い込みたい、
という傾向が強い。そのため、就活生にとって「高い意欲を示せたら、内定に近付くことができる」という構造にはなっていない。

「志望動機が説得的か?」は、むしろ、中小事務所において重要である。中小事務所の多くは1〜2名しか内定を出さない。そのため、
― 内定を出した後に、司法修習が始まってから、裁判官・検察官に誘われて内定を辞退される、
というリスクがきわめて深刻である(50名規模の内定を出す大手事務所のように「歩留まり」を想定して対処することができない。つまり、「辞退されるかも」と思って3〜4名の内定を出して、全員に入所されてしまったら、それはそれで困った事態に陥ってしまう)。

つまり、どれだけ優秀そうな就活生であっても、
― もしかしたら、こいつ、内定を出しても、後で辞退するかもしれない、
という疑いをかけられたら、それは採用選考上も大きなマイナス要因となりうる。逆に「志望動機に説得力がある」という候補者は有利である。

と頭でわかったところで、
― 中小事務所で説得力がある志望動機を起案する、
というのは、けっこう難しい作業である。

理念的には、
― 自分が特に関心がある法分野が●●法であり、
― ●●法に強い事務所の中でも、貴事務所で特に働きたいと思った、
という点を整理しておけるのが典型的な模範回答となる。

「関心がある法分野」については、学部や法科大学院でゼミで取った法分野が一番わかりやすいが、それしか手札がないと、
― 知財を扱っていない事務所に「知財をやりたいです」といって応募してしまう
という失態も生じる。手札を増やすとすれば、司法試験の選択科目や試験とは別に、その分野を専門としている弁護士や学者の書いた物を読んでおくような準備が求められる(基本書を読んで面白かった、というのはあまり説得力がないので、「へぇ、受験生なのに、そんなのを読んでいるんだ」と思われるような論文やエッセイを選んで、自分のセンスの良さを示したいところである)。

「●●法に強い事務所の中でも、貴事務所で特に働きたい」という論証も、かなり起案が難しいところであるが、とりあえず、事務所のHPから、
― 所属弁護士が執筆した書籍・論文を確認する(できれば、入手して目を通す)
― 所属弁護士の経歴を確認する(留学先や出向先があれば、その行き先を確認する)
というリサーチを進めながら、
― 自分が、この事務所のパートナーの下で仕事をしたいと考える理由
を探すことになるだろう。

なお、応募先の事務所が、「この事務所が競合」と意識しているような先がありそうならば、
― ライバル事務所と比較しても、この事務所で働きたいと思っている、
という理由まで準備できていると素晴らしい(もっとも、「比較する競合先」には、業界最高峰の優れた事務所を選ぶべきである。格下の事務所と比較されたら、パートナーは気分を悪くしてしまうかもしれない)。


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