
商事法務ポータル「大手法律事務所の名古屋オフィス代表弁護士インタビュー第1回アンダーソン・毛利・友常法律事務所」
商事法務ポータルで、大手法律事務所の名古屋オフィスへの取材シリーズの第1弾として、アンダーソン・毛利・友常法律事務所(AMT)の佐橋雄介先生へのインタビュー記事が掲載されました。
大手法律事務所の地方オフィスへの取材を企画した背景としては、私は、このインタビュー取材の前には、
(A) 大手事務所の地方オフィスは、地元の弁護士とうまくやっていけるのだろうか?
(B) 大手事務所の地方オフィスに勤務する弁護士のキャリアは満足の行くものなのだろうか?
という「ビジネスモデル」と「キャリアモデル」の両面での懸念を抱いていました。
というのも、「東京本拠の法律事務所の地方展開」で真っ先に思い浮かんだのは、
「過払金バブル」時代に、債務整理系事務所が地方支店を続々と開設して、「地方の過払金案件を掘り尽くす」という意味で、地元の弁護士と対立していた姿
だったからです。
また、「東京本拠の法律事務所に入所した弁護士が、地方に異動になる」という外形に、
「え?中学・高校・大学とトップ校を歩んできた学歴エリートにとって、地方勤務は左遷と受け止められているのではないか?」
という疑問でした。
しかし、大手法律事務所の名古屋オフィスを回って話を伺うことで、私が抱いていた2つの懸念はまったくの見当違いであったことを気付かされて、自分の視野の狭さを恥ずかしく思い知らされる結果となりました。
まず、(A)(ビジネスモデル)については、
・ 債務整理系事務所による地方出店が「地方の弁護士が十分に担える業務を(収益性が高いところに目を付けて)地方弁護士から業務を奪うモデル」であったのに対して、
・ 大手法律事務所の地方オフィス開所は「地方の弁護士が地元で担っている業務を尊重しつつ、東京で先駆的に行われている特殊案件のプラクティスを保管する共存共栄のモデル」である、
ということに気付かされました。
(第1弾のAMTの佐橋先生へのインタビューでは、アクティビスト対応がその典型例のひとつであると教えていただきました。確かに、上場企業の持ち合いが解消に進み、政策保有株も減少している状況で、地方の上場企業もアクティビストのターゲットとなる脅威が高まっています。さらに言えば、経産省が「企業買収における行動指針」を公表し、事業会社による「同意なき買収」も正当なM&Aの選択肢として認知された状況においては「地方の上場企業も『東京における先駆的事例』のノウハウを活用するニーズは高い」と感じました。また、「買収提案への対応」に限ってみても、地方の弁護士の先生には、地元の上場企業の社外取締役や社外監査役の立場で(AMTのようにこの種案件に対する豊富なノウハウを持つ専門家に土俵を設定してもらった上で)当該事業や当該会社組織の特性に則した判断をしてもらう、という「棲み分け」ができるのだろう、と感じました。案件の幅を「不祥事調査」「紛争案件」「一般民事」「家事」等にも広げていけば、それぞれ、地元の弁護士の先生方との「棲み分け」のあり方が様々なのだろうと想像しています。)
また、(B)(キャリアモデル)についても、
・ かつては、東京の渉外事務所で働く弁護士は「若いうちは、東京で渉外弁護士として挑戦してみるが、ゆくゆくは、地元に戻って悠々自適に一般民事をやっていくかな」という、東京でのキャリアを捨てて、これと分断された形でしか「第二のキャリア(地元での弁護士業務)」を見出すことができなかったところに、
・ 大手事務所の東京オフィスで、専門性が高い案件についての修行を積んだ上で、地方に移って、地元企業のために、その側に腰を据えてリーガルサービスを継続する」というキャリアがあらたに創出されたのだ、
ということを気付かされました。
(コロナ禍を経て、リモートワークが進んだことは、東京オフィスと地方オフィスの連携をスムースにしてくれていますが、逆に言えば「敢えて地方にオフィスを構える必要があるか?」という疑問もインタビュー中に一度は湧きました。しかし、その点に関しては、佐橋先生から「アクティビスト対応のような案件では、クライアントも不安が大きいので、リモート会議ではなく、対面での相談を希望しがちである」という一例を教えていただくことで疑問が氷解しました。実際、佐橋先生ご自身が、名古屋オフィスでアソシエイトからパートナーに昇格されてオフィス代表を務めておられるので、「東京で磨いた最先端のリーガルサービスを保持し続けること」と「クライアントの身近に身を置くことで人間的な信頼を獲得した上で説得力のあるアドバイスをすること」の両立が、「企業法務系弁護士にとってのプロフェッショナルとしてのやりがい」の新しい類型になっていることを理解しました。)
名古屋オフィスインタビューは、第2弾、第3弾、第4弾と続きます。無料会員でも「記事の続き」を読むことができるので、この機会に会員登録をして、ぜひ記事を最後までご覧いただければと思います。