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「多数の選択肢を慎重に比較検討すれば、最善のキャリア選択に近付くことができる」という考え方に疑問を抱いた話(多数の選択肢の比較は、説明責任を尽くすことには役立っても、『一番大事なことは何か?』を見失わせる危険があるかもしれないと感じた話)

人材紹介業者には、2つの側面がある。採用側に候補者を紹介する「リクルータ」としての側面と、相談者側に適切な転職先を提案する「キャリア・アドバイザー」としての側面である。

まず、「リクルータ」としての側面においては、「できるだけ多数の候補者を提示する」ことが「是」とされている。採用担当者としては、上司に対して「なぜ、この候補者が採用に値するのか?」を説明する際に、他の候補者よりも相対的に優れていることがその理由となり比較した候補者の数が多いほど、理由の合理性が補強されていくからである。

これに対して、「キャリア・アドバイザー」の側面において、「できるだけ多数の転職先を提案する」ことが「是」かどうか?は、そう簡単には言えない(とは以前から感じていた)。相談者の中には、「就職時には、ひとつしか見ずにすぐに決めてしまったので、今回の転職時には、じっくりと多数を比較したい」という希望を述べる者がいる。そういう方に対して、いきなり「ここがベストだと思う」という転職先をズバッと提案すると、「多分、そうなのだとは思うけど、念の為、他も見てみたい」というコメントが返ってくる。その希望を無視して、「いや、ここがベストだ」と押し切ろうとしたら、なんだか、自分が提案先と癒着しているみたいに見えてしまう。そこで、紹介業者としては、「ここがベストだとは引き続き思ってはいるけど、他の候補も見てから判断してもらった方が納得感を持って選択してもらえる」とは思う。でも「確認のためだけにベストと思えない転職先を紹介する、ってどういうことなのだろうなぁ、、、、紹介先にも『当て馬』みたいな役割をさせることになって失礼だし、、、」という迷いを感じることが多かった。

そんな思いを抱えていた時に若手弁護士と話をして「キャリア選択は、本人の意思又は覚悟だけが肝であり、『説明責任を尽くす』という発想は要らないんだ!」と感じさせられる瞬間があった。

その若手弁護士は、企業法務系事務所から刑事弁護に転身しており、転職の経緯について「事務所のウェブサイトにアソシエイト募集を見付けて、直接、自分で応募した」と教えてくれた。そして、今、「弁護士業務のど本丸」と言って、生き生きとして刑事弁護士をしている。そして(幼稚な表現で恐縮だが)「カッコイイ!」「弁護士みたい!」と思わされた。

その話を伺って、「こういう転身は、転職エージェントを通じては実現しなかっただろうな」「下手にエージェントに相談したら、その思いは潰されていたかもしれない」と思わされた。エージェントに相談した場合のシナリオを想像してみると、多数の転職先候補を提示されて、
― 給料はいくらか?昇給は?
― 留学制度はあるか?経済的補助はいくらか?
― パートナー昇進の年次と要件は?その後の報酬体系は?
みたいな要素を比較検討するプロセスが展開されていただろう。そんなことをしていたら、「刑事事件がやりたい」という思いで始まった転職活動が、いつの間にか「給料が下がる」とか「留学制度がない」という理由でその方向性での検討を具体化することが躊躇させられてしまい、「自分が本当は何をしたいか?」がどんどんボヤけて見えなくなってしまっていただろう(ちなみに、彼の場合は、移籍してみると、事務所からの固定給以外にも個人事件もできているため、結果的には、覚悟していたほどの収入の減少は生じていないとのことだった。「案ずるより産むは易し」の典型例だ)。

ぼくが、2007年に、最初の本(「弁護士の就職と転職」)を出した時、その思いは、
「自分が転職活動をして、外国人ヘッドハンターを含めて10名以上の転職エージェントに会って相談して少しは転職市場について知識も得られた。でも、次に転職する人が、再び、ゼロから、自分が行った情報収集を繰り返すのは不経済ではないか?」
というところにあった。「転職市場に関する情報」が少しでも多く公開されることが「是」という信念があった。

ただ、先日、就活生から内定取得の体験談をヒアリングしていた際に、就活生から、
「情報収集をしすぎてしまった。深入りし過ぎてしまった。いろいろな事務所を見るのが大事だと思っていた。その経験は無駄にはなっていないと思うが、沼にハマってしまって、必要もないくらいに悩んでしまった。」
という言葉が聞かれた。

これまでは、「キャリア・アドバイザー」という側面でも、「情報を提供する」とか「本人が気付かない選択肢を提示する」という役割が必須だと思ってきた。でも、それと同時に(場合によってはそれ以上に)「情報を削ぎ落とす」とか「何が本人にとって最も重要な要素かを見極める手伝いをする」ということの方が重要になってきているのかもしれない、と感じさせられた(やり方を一歩間違えると、「占い師」みたいなアドバイスになっちゃう危険もあるし、そもそも、自分にきちんとした方向性がある人ならば、自分で直接応募できるので、転職エージェントに相談する必要すらないのかもしれないけど)。

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