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(備忘録)転職エージェントによる法律事務所のネガティブ情報を用いた代理戦争の不毛さ

前回の備忘録で、法律事務所をランク付けする考え方を記載したが、企業への就活におけるように、法律事務所を人気ランキング的に順位付けすることに重きを置いてしまうことは、「転職」の局面では、思考を迷宮入りさせるリスクが高いと思っている。

企業への就職又は転職活動であれば、
― 組織の一員となり、簡単には解雇されないメンバーになって、その組織に養ってもらう
という側面が強いので、「どの企業が優れているか?」を議論する意味はまだある(それも薄れてきていると思うが)。

他方、法律事務所にアソシエイトとして参画しても、労働法の適用はないと考える経営者が大多数の中では、
― どの法律事務所が組織として優れているか?
という評論家的な思考をさて置いて、
― どの事務所であれば、自分に足りない経験を補ったり、スキルを伸ばすことができるか?
を考えるほうが遥かに重要である。

実際、漫然と転職を考える頃のアソシエイトには、
「これまではこの事務所でも成長ができたが、少し前から、成長が止まっているような気がする」
「自分が弁護士として一人前になって、自分で食っていけるようになるためには、もっとこういう分野の経験を積んで、仕事を通じて、潜在的クライアントや紹介者に自分を売り込んでいかなければならない」
という発想をしている。

ところが、具体的に転職先を考えて、複数の転職エージェントにも相談するようになると、
― 転職エージェントによる法律事務所間の代理戦争
のような展開を迎えて、
「A事務所のパートナーには、パワハラの噂がある。」
とか
「B事務所はクライアント筋が悪い。」
とかのネガティブ情報の応酬につながることもある。
(転職エージェントは、事務所に不満を持ったアソシエイトからの転職相談を受けるために、事務所に対するネガティブ情報が集まりやすい。)

迷宮入り思考

そうなってくると、
― 自分にとって足りない経験を補って、スキルを伸ばしてくれる事務所はどこか?
という視点から離れて、抽象論として、
― A事務所とB事務所はどちらが優れているか?(どちらのネガティブ情報がより少ないか?)
という議論にすり替わってしまう。

また、ネガティブ情報は、まったくのデマというよりも、「能力が低いアソシエイトにとっては、パートナーからの要求はパワハラと受け止められるような指導だった」というような主観的な評価を情報源とすることも多い。

ただ、それを「ブラック事務所」と決め付けてしまうのは、「アソシエイト的視点」であって、自分も、将来、パートナーになって事務所経営を支える側に回ることを考えれば、
「クライアントを満足させられないレベルのリサーチやドキュメンテーションしかできないアソシエイトを甘やかしたままで、どうやって一流のリーガルサービスを提供するのか?」
という問題の背景も理解しなければならないようにも思える。

そこで、仮に、そんなことを説教っぽく語り始めたところで、
「いずれは、一人前の弁護士として独り立ちしたい!」
という目標を持ったアソシエイトでなければ、それが心に響くこともない。「いえ、自分はパートナーにはならずに、どこかのタイミングでインハウスに転向しますから」というシナリオを提示されてしまったら、議論が噛み合うこともない(「いや、会社員でも、管理部門ビジネスパーソンとしてのキャリアプランの構築には難しさがあるのではないか?どうやってマネジメント能力を磨くか?とか、部門長としての経験をどこで初めて積むチャンスを得るか?」という問題提起をしてみることもできるが、次には「いえ、自分は別に出世に興味はないので」という反論が予想される。さすがに「いつまでも平社員として仕事を続けられると思っているの?」と言ってみても嫌味にしかならないだろうし)。

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