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インターン生との対話:宇宙ベンチャー(アクセルスペース)の採用ニーズ

インターン生
「今日は、アクセルスペース(Axelspace)訪問にご一緒させていただきまして、どうもありがとうございました。宇宙ビジネスにも宇宙法にも知見がないため、正直、募集要項を見ても、あまりピンと来ていなかったのですが、CFOからお話しをお伺いして、とても面白い事業だと思いました。『三井のすずちゃん』のテレビCMの宇宙編で『人工衛星も日本橋で作られているんだよ』で紹介されているクリーンルームも見ることができてテンションが上がりました。」

西田
「ぼくも、小塚荘一郎先生の「宇宙ビジネスのための宇宙法入門(第3版)」(2024年、有斐閣)を買ったのですが、まだ読む時間がなくて、訪問前に、慌てて、募集要項にリンクが貼ってある動画(3分でわかるアクセルスペースの歴史)と、創業者の中村友哉CEOが、中学生・高校生に向けて語っている東進オンラインの動画を見るのが精一杯だった。」

インターン生
「中学生・高校生向けの動画ですか。」

西田
この動画を見たおかげで、アクセススペースは、優秀な弁護士にとって転職を検討するに値する会社だ、と評価できた。」

インターン生
「今からでも見ておいた方がいいですかね。」

西田
「文系の弁護士にとって、ディープテック企業の事業そのものを評価することは難しい。それだけに『経営者を尊敬できるかどうか』『経営者が作り上げようとする未来の実現を応援したいと思えるかどうか』が第一関門だと思う。」

インターン生
「西田先生は、アクセルスペースの中村友哉CEOが優れた経営者だと思われたのですね。」

西田
「うん。東大工学部で人工衛星を手作りしている中須賀先生の研究室に入って、周囲からは『学生の衛星なんて成功するはずがない』『宇宙をなめてもらっては困る』と批判されながらも、反骨精神を持って、前例のない取組みを成功させた話、前例がないだけに起業しても投資家や取引先を見付けられずに苦労した話、そんな中でも、北極の航路を探すために衛星からの写真を必要とするウェザーニューズの創業者と出会って共に最初の人工衛星を作って打ち上げるに至った話、というのは、素直に感動しちゃった。」

インターン生
「ぜひ動画は見てみたいと思います。」

西田
「うん。上場している会社ならばともかく、上場前のスタートアップについては、経営者のプレゼンは見ておいて損はないと思う。逆に言えば、それでピンと来なければ、もはや検討する必要もないかも(笑)」

インターン生
「今日の説明にもありましたが、宇宙ビジネスの業界では、すでに上場している会社があるのですね。」

西田
「月面探査ロボットを開発しているispaceは、昨年(2023年)4月に東証グロース市場に上場しているし、スペースデブリ(宇宙ごみ)除去等を扱うアストロスケールは今年(2024年)6月に東証グロース市場に上場しているね。」

インターン生
「アクセルスペースのような光学式のカメラではなく、大型アンテナから電波を出して地球を観測するSAR衛星による事業化に取り組んでいるQPS研究所も昨年(2023年)12月に東証グロース市場に上場していますね。弁護士の転職先としては、安定している上場企業の方が無難なのでしょうか?」

西田
「定年までのジョブ・セキュリティを目指すならば、プライム上場企業の中から転職先を選ぶことになるかなぁ。他方、『人材市場での価値を上げる』という点では、IPOを実現したメンバーの一員となること自体に次のスタートアップにも転用できる経験価値が生まれるから、上場前に入ること自体にも積極的な価値があると思う。」

インターン生
「IPO経験者の市場価値は高くなるのですね。確かに、アクセルスペースのように技術力がしっかりしていて、すでに10機もの小型衛星の打ち上げに成功しているならば、IPO準備の段階がチャンスですね。」

西田
「IPO経験もそうだけど、部門長としての経験も得るチャンスも大きいと思う。今回は、ひとり法務の募集だけど、上場して業務が増えれば、法務部門がチームとなり、その部門長になれるので、チームをマネジメントする経験も積むことができる。」

インターン生
「部門長としての経験は、大企業の方が積みやすいのではないでしょうか。」

西田
「それはそうなんだけど、大企業は、法務部門の人材の層も厚いので、部門長まで出世できるのは競争に勝ち残った人だけだよね。また、日本の伝統的企業の場合は、新卒入社の生え抜きを重視する傾向もあるため、弁護士の中途入社が部門長にまで出世できるのは稀だと思う。」

インターン生
「なるほど。では、スタートアップや外資系企業が、部門長経験を積むチャンスなのですね。」

西田
「外資系企業は、内部昇進を優遇せずに、部門長にも外部人材も登用してくれるけど、それでも、同じ規模の企業における同じクラスのポジションの経験者を望む傾向もあるよね。だから『どこで初めての部門長経験を得るか?』がひとつの壁になっている。それだけに、スタートアップで『事業規模が小さい段階でのひとり法務から始めて、事業が拡大するのと共に法務の業務量も増えて自分の部下を増やしていくことでチームを作っていく』というのはひとりの理想的なシナリオだと思う。」

インターン生
「西田先生は、アクセルスペースの法務ポジションの最大の魅力はIPOの推進メンバーとして参画できるところにあると考えていますか?」

西田
「ひとつはそうだと思う。でも、それ以上に『宇宙ビジネスに関われる』というのは、『専門分野を持ちたい』と願うアソシエイトにとって魅力だと思う。」

インターン生
「一般論としては、多数のクライアントの相談を受けられる法律事務所の方が、専門性を磨くのに有利な環境だと聞くのですが、その点はどうでしょうか。」

西田
「確かに、M&Aとかファイナンスのようなディール系ロイヤーとか、株主総会指導とか、金融規制法とかを専門としていたら、『他社ではこういう風にやっている』というアドバイスが価値を持つよね。でも、少なくとも宇宙ビジネスについては、この分野をメインに売上げを立てられるパートナーはごくごく僅かなんじゃないかな。」

インターン生
「そういえば、今日の話でも、政府関係での手続を進めていく中で交渉事になってしまうと、背景事情や事業の内容がわかっていないと何がポイントかわからないので、外部弁護士には依頼しづらいと言っていましたね。」

西田
アクセルスペースの今年(2024年)3月のロケットの打ち上げは、アメリカのカリフォルニア州で打ち上げ事業者はSpace Xと公表されているけど、個人的には、Space Xにロケットを打上げてもらうための契約がどう規定されているのか、とか、そのための宇宙保険がどうなっているのか、とか興味を引かれるよね。」

インターン生
「西田先生は、このポジションの先のキャリアってどう想像されていますか。」

西田
「一番わかりやすいシナリオは、会社が上場して、法務部門を立ち上げて、部下も雇ってもらって、チームとして、上場会社としてのガバナンス体制、コンプライアンス体制も整備して、個人としても株主総会対応にも上場会社規制にも詳しくなって、会社もプライム市場に鞍替えして、名実ともに、プライム上場会社の法務部門のトップとなり、ポジション的にも執行役員ポジションを得る、という将来像だよね。」

インターン生
「あとは、人材市場での価値も上がるので、他社に転職する、というパターンですね。」

西田
「うん。転職先として直接的に評価されやすいのは、次の世代の宇宙ベンチャーの法務担当者だろうね。もちろん、IPOの経験は、宇宙ビジネス以外でも役立つと思うので、他業種のスタートアップもあると思う。それに法律事務所への移籍もあるんじゃないかな。」

インターン生
「法律事務所への転職もあるのですか。一般的には、インハウスから法律事務所への転職は難しいとも聞きますが。」

西田
「インハウスから法律事務所への移籍は、「クライアントゼロで始めなければならない」というデメリットがあると言われている。でもスタートアップの場合は、退社して法律事務所に移った卒業生に対して外部弁護士として仕事を依頼し続ける例も多い。一度、どっぷりと宇宙ビジネスを経験していたら、後に続くあたらしい宇宙ベンチャーに対しても良いアドバイスができるようになるので、営業面でもそれを売りにできると思う。」

インターン生
「『将来、辞めてしまうことを予定した弁護士』でも紹介できるのですか。」

西田
「いい質問だね。確かに、短期ですぐに辞めてしまうおそれが大きい候補者を紹介することはないね。でも『IPOを実現して、一区切り付いたら卒業したい』と考えてスタートアップに入る社員は多いと思うよ、弁護士に限らず。それは会社側も了承していると思う。」

インターン生
「募集要項には、「必要なスキル・経験」として、「企業法務に関する3年以上の実務経験」と書かれていますが、西田先生は、留学前のアソシエイトを想定していますか。それとも、留学帰りでNY州弁護士資格も持っているようなシニアアソシエイトを想定していますか。」

西田
「正に、ジュニアか、シニアか、どちらを候補者に想定すべきかは悩ましいと思っていた。スタートアップのひとり法務なので、社内の細々とした相談にも対応しないといけないし、政府関係への提出書類とか会議の議事録とかドキュメンテーションもあるだろうから、留学前世代のジュニアなアソシエイトの方が向いている作業が多く含まれている面もある。」

インターン生
「CFOも『英語にはアレルギーがなければ構わない。英文契約書を読めて、学ぶ意欲があれば、仕事をしながら勉強してくれたらよい』と言っていましたよね。ただ、判断に迷う法律問題を相談できる先輩が社内に居ないのは、ジュニア・アソシエイトにとっては厳しくないですか。」

西田
「うん。外部の顧問弁護士がそういう相談相手になってくれるような先生かどうかは確認が必要だろうね。」

インターン生
「外部弁護士が相談役になってくれたら、ジュニア・アソシエイトの方が向いている、ということですか。」

西田
「外部弁護士が相談役になってくれたら、ジュニア・アソシエイトでも日々の業務を回していくことはできるとは思う。ただ、本音を言えば、ある程度の経験があって英語もできるシニアな弁護士の方が、この会社で得られるIPOの経験とか、海外事業者との契約交渉とか、外国の法律事務所とのコミュニケーションの経験を、直ちに、上場企業の法務担当執行役員としてのキャリアに結び付けられるチャンスが大きいような気もする。でも、、、、」

インターン生
「でも、給与水準ですか。」

西田
「そう。募集要項には『給与 応相談』と書いてあり、今日も具体的なことは聞けなかったけど、おそらく、英語が堪能な有能な渉外弁護士が、大手事務所とか外資系事務所で提示されるような年俸には届かないと思うから、条件を落としてまで来てくれるか、という問題はあるよね。」

インターン生
「仕事のやりがいが、どこまで給与を埋めるものになるか、という点ですね。」

西田
「最終的には、『本人が何を幸せと感じるか』の問題なんだけどね。「3分でわかる」の動画にあるように、ロケットで自社の人工衛星が打ち上がった時のチームの一員としての喜びなんかは、外部アドバイザーに過ぎない法律事務所の弁護士には想像もできないものだと思う。とはいえ、家族がいたら『子供の教育費が』とか『住宅ローンが』という現実的な問題は大きいよね(苦笑)。」

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