大手法律事務所への就職は、「大は小を兼ねる」感覚で選択してもよいか?
企業への就活において、総合商社を志望する際に、
― まだ業界を絞りきれないため、多様な事業を展開している総合商社に入っておきたい、
というのは理解できる。
しかし、その感覚を、法律事務所への就活にも持ち込んで、
― まだ、専門法分野を絞りきれないため、多様な法分野をカバーしている大手事務所に入っておきたい、
と考える就活生に対しては、「ちょっと待ったほうがいい」と言いたくなる。
法律事務所においては、
― 事務所がカバーする業務分野が広い、
という点と、
― そこに就職したアソシエイトが自ら担当できる業務分野が広いか?
という点はまったく別である。比例しないどころか、反比例するのに近い。
大手法律事務所は、
― アソシエイトをグループ別に配属して早期に専門化させること
には向いているが、裏を返せば、それは、
― 自分の専門以外の分野の経験を積む機会に乏しい
という意味でもある。
楽観的に考えれば、
― でも、配属されたグループが合わなければ、別グループに異動すればいいのでは?
という期待も抱くかもしれない。でも、実際にそのような事態に遭遇しても、その期待は叶えられない。
人材紹介業者をしていると、
― 大手事務所のアソシエイトにとっては、所内の別グループに異動するよりも、他の事務所に移籍するほうがずっと楽、
ということを知らされる。
大企業の正社員(総合職)と違って、法律事務所の人事制度には、定期的に部署を異動するようなジョブ・ローテーションは組み込まれてない。弁護士の専門性を高めるためにグループ制度を設けているのだから、当然のことだろう。事務所によっては、「本人の希望を尊重したい」として、1年目に「お試し」で複数の部門を経験させた上で、本格的に配属する、という制度を設けている先もあるが、全員の希望が通るわけではない。事務所側にも業務量に応じた「アソシエイトの割り振り」が求められる。人気がない部署には誰も配属させない、というわけにはいかない。
また、将来における所内でのキャリアを見据えても、「グループの異動」は、本人にとっても得策ではない。「異動」は、「もとのグループとの離婚」としての「バツイチ」が示唆される。そして、異動先には、その部門に当初から配属されている先住者が存在しているため、「転校生」として後からその部門に馴染もうとしても障壁もある(仕事を振ってくれるパートナーがいたら、それは、その部門の既存アソシエイトからは嫌われているパートナーだった、という不幸もある)。
そう考えると、
― 事務所内の別グループに異動するくらいだったら(所内での負の経歴を引きずって仕事を続けるよりも)、キャリアをリセットするために転職して、まったく別の法律事務所でゼロからやり直したい、
というアソシエイトの気持ちもよく理解できる。