『実例解説 相場操縦事件』の著者インタビューを担当して、「経済事件の専門家になるためには当局経験がきわめて重要」だと改めて感じた話
商事法務ポータルに、「実例解説 相場操縦事件」の著者である清水真一郎弁護士と志村聡弁護士へのインタビュー記事が掲載された(掲載当初は会員でなければ読めない設定であったが、現在は、会員登録なしに誰でも読める設定となっている)。
「相場操縦」と言えば、弁護士業界的には、2007年に、OHT株の相場操縦事件に関連して、インターネットニュース等で「六本木ヒルズに事務所を構えていた第一東京弁護士会所属の男性弁護士」が行方をくらました、という報道がなされて話題になった。TMIのパートナーは「六本木ヒルズというだけで間違われて困る」と愚痴っていたし、失踪した代表弁護士は従前に欧米系ヘッドハンティング会社にアソシエイト採用のサーチを依頼していたようであるが、結果として代表弁護士の失踪に伴って事務所が解散したため、逆に所属弁護士が移籍先を求めて転職活動をする展開を迎えて、そのことが「弁護士の人材の流動化」に役立った、とも言われた。
「実例解説 相場操縦事件」の著者のひとりである清水弁護士は、インタビューの中で、さいたま地検特別刑事部で「元弁護士による相場操縦事件」を捜査、起訴したことがあると述べられて、さらに「タイのバンコクに10年近く逃亡していた元弁護士を、現地の警察に協力を仰いでようやく逮捕に辿り着けられた事件です」と語っておられるところで、この事件のことが思い出される。
インタビューを担当して興味深かったのは、清水弁護士も、志村弁護士も、証券取引等監視委員会(SESC)に着任するまでは、相場操縦事件の経験がなかった、という点である。しかも、SESCに着任した際にも、
「参考になる書籍は何もありませんでした」
「古株の調査官の方から教えてもらったりして自分で考えた」
「先輩方も、別に本を読んで勉強してきたわけではなく、事件をやりながら学んできた、という方々ばかりでした」
といった状況だったそうである。
その後、SESCにおいて、志村弁護士は相場操縦で課徴金処分の勧告に至った案件を20件以上も担当しており、清水弁護士については、課徴金事件に加えて、刑事事件としての相場操縦事件を、SESCの立場、検察庁の立場、そして、弁護士の立場で担当されている。相場操縦事件に関して日本で最も経験豊富とも言える2人の弁護士から、この本において、当局側の保有するノウハウまでを含めて惜しみなく開示してもらえたことは、この分野を目指す実務家の教育、そして、この分野の研究を促進するためにきわめて有益なことだと思った。
インタビューでは、相場操縦の本論以外にも、末尾で、SESC時代に清水弁護士及び志村弁護士がお仕えした、佐渡賢一委員長(当時)、吉田正之委員(当時)、それに、岳野万里夫さん、大森泰人さん、佐々木清隆さんといった歴代の事務方トップについての人物像が語られている。関係者には本論以上に興味深いかも。