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司法試験受験生との対話:「法律文書の英訳術」

司法試験受験生
「商事法務ポータルの柏木昇先生のインタビュー記事を見て、さっそく『法律文書の英訳術』をアマゾンで買いました。」

西田
「だからアマゾンでも順位が上がっていたのか(笑)。司法試験だけでなく、その先の実務に目を向けるスタンスは素晴らしいと思う。実際、就活にも役に立つと思うよ。」

司法試験受験生
「本当ですか?商社希望ならば、ということですか?」

西田
「もちろん、『三菱商事出身の柏木先生の著書を読んで総合商社の仕事に興味を抱きました。』と志望動機を起案しても構わないけど、柏木先生ご自身も、もともとは営業部志望だったと語っておられる。現在でも、商社志望ならば、海外を飛び回りたい、という営業志望の方が自然かもね。」

司法試験受験生
「法律事務所への就活にも役に立ちますか?」

西田
「クロスボーダー取引には興味ある?」

司法試験受験生
「はい、日本企業の海外進出を支援したいですし、海外子会社のコンプライアンスにも対応できるようになりたいです。」

西田
「インバウンドには興味ない?」

司法試験受験生
「外国人旅行客とかですか?」

西田
「日本企業をクライアントとして、海外におけるリーガルリスクを分析するアウトバウンド業務が日本法弁護士の仕事として本格的に認められてきたのは、この10年位のことじゃないかな。それ以前は、外国企業をクライアントとして、日本企業を買収したり、日本の不動産を購入する案件に取り組むOUT-INの仕事で日本の渉外弁護士は忙しくしていたと思う。」

司法試験受験生
「アウトバウンドでもインバウンドでもいずれも英語力が重要なんですよね?」

西田
「アウトバウンドの場合は、クライアント(日本企業)とのコミュニケーションは日本語となるので、英語は取引相手方の外国企業とか、海外の法律事務所とのコミュニケーションのために英語が必要になるね。リーガルアドバイザーとしては、現地法のリスク分析が重要になるので、現地の弁護士が英語で説明してくれる内容を正しく理解するスキルが重要になる。」

司法試験受験生
「そうか、インバウンドの場合は、それが逆となって、クライアントである外国企業とのコミュニケーションに英語が必要になるのですね。」

西田
「そう。そこで『クライアントに対して日本法を英語で説明する』という作業が超重要になる。」

司法試験受験生
「だから、アウトバウンド取引では、外国法を日本語で説明する英文和訳の能力が必要で、インバウンド取引では、日本法を英語で説明する和文英訳の能力が必要になる、ということですね。なので、この本は、インバウンド取引に役立つ、ということですね。」

西田
「そういうことではあるんだけど、それが『英語力が高いどうか』という単純な問題ではなく、日本法と、外国人クライアントが前提としている法律の常識との違いについてきちんと理解しておくことが求められる、法律的にも高度な作業である、というのがこの本を読むとよくわかると思うよ。」

司法試験受験生
「そういえば、西田さんは、法律事務所の海外進出支援業務に否定的でしたよね。」

西田
「キャリア形成の視点からは、最初は、インバウンドに従事した方がよいと思っているところはあるね。まずは、外国クライアントからの相談を受けて、自分の国の法律を英語で説明する、という現地代理人の苦労を経験するべきだと思っている。アウトバウンドは、それを踏まえた次の業務、というイメージを抱いている。」

司法試験受験生
「それは、日本法弁護士は、あくまでも日本法の専門家だから、ということですか?」

西田
「そうだね。アウトバウンド業務だと、経営陣から現地法の解釈について質問されても『現地代理人はこう言っています』という説明までしかできない。ぼくとしては、自分の頭で考えて納得した法解釈を述べたいと思ってしまう。」

司法試験受験生
「インバウンド取引だと、その思いが叶うのですか?」

西田
「そうストレートに質問されるとちょっと怯んでしまうけど、そう思う。たとえば、外国のクライアントが、外国で行っているビジネスのスキームを日本に持ち込もうとした時に、監督官庁の担当者はやらないでくれと言っているけど、法律はそうは解釈できないから、やれる余地はあると思う、とアドバイスすることもある。もっとも、監督官庁と喧嘩するには、相当な理論武装をしておかないとならないけど。」

司法試験受験生
「インバウンド業務にも興味が湧いてきました。さすがに、司法試験までは『法律文書の英訳術』を読んでいる時間はないと思うのですが。」

西田
「時間配分として、まずは司法試験最優先、というのでいいと思う。ただ、『法律文書の英訳術』は、勉強の息抜きに拾い読みするだけでもよいと思う。」

司法試験受験生
「最初から通読しなくてもいいのですか?」

西田
「全体を通じて、『英米のコモンローの法体系で教育を受けたネイティブの法律家に対して、日本法を英語で簡潔に説明することはとても難しい。1:1対応した訳語があるわけではないので、逐語訳は不可能。意訳して補足説明することが必要』というコンセプトはあるけど、紹介されている具体例は、単独で読んでも『なるほど』と思えるよ。」

司法試験受験生
インタビューの第1回の冒頭では、伊藤眞先生が、柏木先生の文学も含めた幅広い見識に驚かれていましたね。」

西田
「うん、この本の中には、二葉亭四迷によるツルゲーネフ作品の翻訳とか、プルーストの『失われた時を求めて』の英訳の話まで出てくる(34~35頁)。1969年に、佐藤栄作首相がニクソン大統領に対して「善処します」と述べた言葉を、通訳が”I will do my best.”と訳したことが国際問題化しかけた、という(真偽不明の)有名なエピソードも、ぼくはこの本で初めて知った(76~77頁)。」

司法試験受験生
「日本の政治家の『善処します』というのは何もしないことを指すのですね。でも何もしない、と訳すわけにもいかないですよね。」

西田
「そう思う。柏木先生の本でも『表向きにはI will do my best.と思わせて、真意はI won’t do it.であることをそれとなく伝えるような政治家の二枚舌を適切に通訳あるいは翻訳することは不可能である。』と述べられている(76頁)。」

司法試験受験生
「英訳は奥が深いですね。」

西田
「ぼくが『就活に役立つかも』と言ったのも、英訳の奥の深さを少しでも理解しておけば、渉外事務所の就職面接に際して、インバウンド取引を担当されているパートナーの仕事にも敬意を持って臨めるだろう、と思ったから。さらに言えば、そういう『地味だけど、外国人とのコミュニケーションにおいて重要な問題』にも自分は興味がある、と言うことを自分の言葉で表現できれば、渉外事務所への志望動機も説得力を持って書けるかも、と思ったから。」

司法試験受験生
「時間を見付けて『法律文書の英訳術」を拾い読みから初めてみたいと思います!」


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