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なぜ、採用側の手先を「転職エージェント」と呼ぶのか?

人材紹介業をしていながらも、自分は「転職エージェント」という呼称が嫌いだった。

採用側から依頼されて、候補者を勧誘して、転職させることができたら、成功手数料を貰う。完全に「採用側の手先」である。そういう業者が、どういう顔をして「あなたのエージェントです」と言えるのだろうか?

ただ、だからといって、「人材紹介業者が、候補者の利益を食い物にしている」とは思っていない。「ブラックな職場でも転職を実現させて成功報酬をゲットしよう!」とは思わない。だって、職場の問題点は、転職したら、すぐにバレる。通常、人材紹介業者は、採用側との間で「数ヶ月で辞めたら、成功報酬は返金」という約束を交わさせられている。なので、商売上も「どんなところでもいいから押し込んでしまえ」というのは愚策だ。

そんな中、テレビのニュース番組で、イギリスの首相が、大国からの侵略に抗戦している国を訪問して、武器の供給を約束したという報道がなされていた。その映像を見て「あ、人材紹介業者の仕事って、こういうことかも」と思った。

自分は、弁護士を対象とする人材紹介業をしているが、現所属事務所に100%満足して働いている弁護士は(ほぼ)いない。多かれ少なかれ、「こんなクライアントの仕事をいつまでも続けたくないな」と思ったり、「いつかはもっとこういう仕事をしたい」と願っている。ただ、仕事というものは、一旦、スタートしてしまうと、朝、起きた時に「嫌だな」と思っても、仕事前に「今の事務所を続けますか?それとも変更しますか?」とその都度、確認してくれるわけではない。慣性の法則に従って、昨日の続きから再開することがデフォルト設定されている。

小学校を6年通ったら、中学校に進学し、中学・高校を合計6年間過ごしたら、次に大学を受験する。学生時代のそんなステージ変更も社会人には用意されていない。会社員であれば、定期的な人事異動もあるだろう。異動先の内示を受ける度に「このまま続けますか?」という意思確認がなされていると見ることもできるかもしれない。だが、弁護士は「クライアントを維持する客商売」が基本である。「環境を変える」という選択のハードルが高い。

唯一の例外が、渉外事務所における留学である。留学を終えた段階で、もとの事務所に復帰するか?それとも転職するか?を立ち止まって考えることになる。これは比較的に「キャリアをゼロベースで考えるタイミング」に近い(といっても、年次と経験によって選択肢は狭められもするのでゼロベースとは言えないが)。

そう考えてみると、「キャリア選択」は、決して、候補者の心中で、一枚岩の確固たる信念に基づいて行われているわけではなく、
ー 心中にいる、意見が異なる派閥間の意見調整の結果
であることがわかる。

さらに言えば、仮に本人が「転職」を是とする判断を下しても、次に「家族の賛成を得られるか?」という第二ステージが待ち構えている。その次には「現職のボスに相談して、円満退職を実現できるか?」という第三ステージも。それら道のりが存在していること自体が、第一ステージで「わざわざ現状を変更して波風を立てる思い切った行動をするのか?周囲に迷惑をかけてまで転職するのに見合うリターンが保証されているのか?」という萎縮効果をもたらす。

つまり、「転職」には、何事もなければ、今日も明日も「昨日の仕事の続き」をすることを是認してしまう自分内政府にNOを突き付けて、「この仕事を辞めて、次の職場に移ってやる!」という革命を起こすことが必要になる。

あ、そうか、人材紹介業者の仕事は、(転職先と組んで)候補者の中にある「革命勢力」に対して、武器を供給して、候補者の心中内政府(実効支配勢力)を打倒する手伝いをすることなんだ。そう思ったら、「転職エージェント=候補者の心中にいる革命勢力側の代理人」という位置付けで、納得してみた(冷静に考えたら、違いそうな気もするけど、とりあえずは)。


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