『ひまわり求人』を読む(12)IPAX総合法律事務所
前回、スパークルのひまわり求人を読んで、「企業法務系弁護士として一人前になるためには、アソシエイトのうちに、ジェネラル・コーポレート案件を担当しておくことがきわめて重要なのではないか?」ということを改めて感じた。
そういう視点で、ひまわり求人に掲載された広告を眺めると、もうひとつ、「ここならば、優れた教育を受けられるのではないか?」と期待できる小規模事務所が見付かる。それは、IPAX総合法律事務所である。
ひまわり求人の「事務所アピール」欄には、次のとおり、記載されている。
ジェネラルコーポレート、その中でも、外国クライアントに対して、日本法を英語で説明する業務は、アソシエイトとしての足腰を鍛えるために最高の教材である(日本企業の法務部に対して、日本語で法的なコメントをするだけでは、自分自身に正確な理解が欠けていても、文献や論文を抜き書きしたり、専門用語を多用することでなんとなく誤魔化せてしまうことが多い。これに対して、英語ネイティブの外国人に対して日本法のリーガルリスクを説明することは、英語力よりも前に、アソシエイト自身が日本法上の論点の所在を正確に理解することが求められることになる。特に、日本法の前提知識が欠けているが、知的水準が高い外国人クライアントからの質問への対処は、日本語の専門用語では逃げられないので、アソシエイトにとって優れた訓練の機会となる。もっとも、リサーチや英文での回答の起案に相当な時間を要する割には、タイムチャージベースでは大きな金額を請求することが難しいことが多いため、時間単価が上がる前のジュニア・アソシエイト時代に経験を積んでおくことが望まれる)。
ひまわり求人のその他の項目を見てみると、IPAX総合法律事務所は、パートナー1名(51期)、アソシエイト2名(71期)の3名体制である。ひまわり求人の閲覧者の中には「このような小規模の事務所で、本当にまともなクライアントがいるのだろうか?」という不安を抱く者もいるだろう。というのも、ひまわり求人には、「事務所HPアドレス」が空欄となっており、これ以上に、IPAXのことを知る術がないように思われるからである。
そこで、インターネット上の検索サイトで、代表の圓山卓弁護士の名前を入れて検索してみると、圓山弁護士がマネージング・ディレクターを務めているアドバイザリー会社のHPを見付けることができる。そこには、圓山弁護士の略歴も紹介されている。
略歴を見ると、まず、圓山弁護士が、アンダーソン毛利(友常)法律事務所出身であることが分かる。平成生まれ世代のアソシエイトが大手法律事務所に抱く印象からすれば、「大手法律事務所では、グループ制度の下で、アソシエイトは早期に専門化されるため、『M&A』も、『知的財産』も、『ファイナンス取引』も同時に担当するのは不可能ではないか」という疑問を抱かれるだろう。しかし、アンダーソン毛利友常は、大手事務所の中で、グループ制度の導入に最も慎重だった事務所である。50期代の弁護士であれば、アソシエイト時代に、M&Aのパートナー、知財のパートナー、ファイナンスのパートナーと並行して一緒に仕事をすることは可能な環境であった。
圓山弁護士の経歴で興味深いのは、そこから先である。欧米のロースクールのLL.M.課程に留学するのではなく、「ロンドン・ビジネススクール経営学修士(MBA)」取得と記載されており、さらに、そのまま、マッキンゼーに転職して、戦略、新規事業立案、M&A戦略、海外事業展開に関する経営コンサルティング業務に従事されている点である。マッキンゼーでは、ロンドン、フランクフルト支社にも転勤しているとのことであり、圓山弁護士がマッキンゼー内で高く評価されていたことが窺われる(弁護士有資格者がコンサルに転職する事例はいくつか存在するが、同世代の同僚に比べてコンサルタントとしての仕事のスタートが遅いこともあり、残念ながら、コンサルタントとしては評価をされずに終わってしまうことも多い)。
そのような圓山弁護士の経歴を念頭に置いた上で、ひまわり求人に記載された情報を眺めてみると、他の法律事務所とは異なる魅力が浮かび上がってくるように思われる。
おそらく、クライアント企業は、
― アンダーソン毛利友常で培われた企業法務に関する正確な知見
に基づくと共に、
― マッキンゼーで培われた一流の経営コンサルのセンス
も加味されたアドバイスを求めて、IPAX総合法律事務所に相談をしているのだろう。
それを踏まえて考えると、「顧問先からの依頼全般について支援していただくことを想定しています。」というIPAXのジョブ・ディスクリプションは、シンプルではあるが、「他の事務所では得ることができない修行の機会を与えてくれるのではないか?」という期待を膨らませてくれる。