ビジネス法務2018年1月号「ヘッドハンターが語る 年代・組織別 法務キャリアの要件」
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ビジネス法務2018年1月号「ヘッドハンターが語る 年代・組織別 法務キャリアの要件」

ビジネス法務2018年1月号には、法務パーソンのキャリアを、修行期(25~35歳)、活躍期(35~55歳)、円熟期(55歳〜)の3つに分けて整理してみた、以下の原稿を掲載していただきました。

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ヘッドハンターの経験から語る「法務キャリア」を考える視点

 法務キャリアには、収益事業たるリーガルサービスの営業手腕を発揮するフロント成功型(法律事務所のシニア・パートナー)がひとつの頂点として存在する。もう一つの頂点は、企業の間接部門に身を置いて同社のリーガルリスクを管理するバックオフィス成功型(企業の法務担当役員)である。前者を目指すならば、特定法分野のスペシャリストとしての経験が求められ、後者を志すならば、所属企業の経営陣から法務全般への信頼を受けるだけのジェネラリストとしてのバランス感覚が求められる。

Ⅰ  はじめに
 ヘッドハンティング業務を続けていると、リーガルマーケットにも「競争原理」の導入が進んでいることを感じさせられる。企業から「この案件の依頼先としてどの事務所がよいか?」と尋ねられることは従前からあったが、今は「適当と思われる事務所を3つ挙げてもらいたい。実績と費用を見比べて選びたい」という相談が増えている。「複数の候補先を比較検討したプロセスを経ること」が、選定権者の説明責任を果たすことになる、という考えが広まっているためである。
 人事採用においても同様である。かつては「縁故がある候補者の一本釣り」をしていた先も、今では、ジョブ・ディスクリプションを作って「この要件を満たす候補者を10名リストアップして職務経歴書を提出してもらいたい。そのうち5名を面接し、最優秀の候補者にオファーをする」というような指示を出すようになった。この流れを受けて、キャリア・プランとして、大規模な事件や重要事件を任されるようになりたいという目標を設定するならば、(受任した事件を後追いで勉強するのでは間に合わずに)その職務を担う候補者として相応しい「形式(資格・職歴)」や「実質(経験)」を前もって地道に積み重ねる努力を意識しなければならなくなった。

Ⅱ  キャリアの形式要件
1  年齢
 法務系の人材市場は、大別して、修行期(25〜35歳)、活躍期(35歳〜55歳)、円熟期(55歳〜)に分けて考えることができる。これには3つの意味がある。「35歳までは修行に専念すべきである」し、「35歳を過ぎたら、一人前の活躍が求められるので、もはや『あたらしい分野を修行したい』という理由で求職をしても年下の候補者にポストを奪われてしまうようになる」し(「35歳転職限界説」と呼ばれる俗説の通りである)、「55歳以降のキャリアは、自分で切り拓けるものではなく、それまでの実績を評価してくれる人から声をかけてもらうのを待つしかない」という3点である。

2  弁護士資格
 法律事務所においては、弁護士資格を持たなければ、本業に携わることができない。パラリーガルや事務局としての仕事では、仕事の醍醐味(依頼者からの信頼と感謝)に欠けてしまう。
 企業内では、スタッフレベルにおいては、資格を問うことなく、実力ベースで内部人事が定められる。ただし、転職市場で資格者と無資格者が競合すれば、「形式」的に資格者の優位が推定される。そのため、無資格者の側に「実質的には自分のほうが優れている」という立証責任が課されてしまう(業界経験やマネジメント経験等で適性が優れていることを具体的に示すことができなければ、資格者にポストを奪われてしまう)。また社内人事でも、株主の目に触れる役員クラスの人事においては、「資格者を選んだほうがコンプライアンス重視の経営姿勢をアピールできる」という「形式」重視の事情が生まれる。
 外国法(主に米国法)の弁護士資格については、多くの日本人にとっては「ペーパードライバーの運転免許証」に過ぎないのが実態ではある。しかし、海外子会社のコンプライアンス管理を法務の重要課題と認識している先であれば、米国法上の弁護士秘匿特権の主張可能性を残す「形式」を整えるためにも人事選考上は加点事由である。

Ⅲ  修行期(25歳〜35歳)
1  法律事務所
(1) 大手事務所
 形式的には、新人弁護士の就職偏差値は大手事務所が最も高いとされている(内定時期が最も早く、成績優秀者が囲い込まれている)。実質的には、「大規模なディール(M&Aやファイナンス)や危機管理案件にチームの一員として関与できる」というのと、「調査分析や起案に先輩弁護士の指導を受けられる」というのに利点がある。企業法務の世界には「一旦、自己流の仕事の仕方が馴染んでしまった者を事後的に矯正できない」という信仰があるために、「最初に教科書通りの丁寧な仕事を学んでいる」ことは、修行期前半における人材市場での評価を高める。
 もっとも、「先輩の層が厚い」ことが、修行期後半以降のデメリットとしても認識されている。つまり、「先輩の確認を経なければ、何も判断ができない」「一人前になるのが遅い」という欠点が指摘されている。

(2) 中小事務所
 中小事務所では、企業との継続的顧問契約に基づいて、契約法務から紛争対応まで幅広い案件を扱うチャンスがある(知財や労働、独禁に特化したブティック事務所であれば、専門分野での話題性がある案件への関与を狙うことになる)。また、事務所事件以外に、個人での受任を認めてくれる先も多く、個人からの相談を含めて「自分ひとりで判断して事件を処理する」という経験を積みやすい。
 他方、早期に営業活動に時間を取られ過ぎてしまうと、勉強不足に陥るリスクもある。

(3) 外資系事務所
 欧米系事務所は、東京オフィスにおける新人採用を控える傾向があるが、ジュニア・アソシエイトの採用ニーズは常に存在する。欧米系事務所の勤務経験を有するアソシエイトに対する人材市場での期待は、「一流の外国人弁護士との仕事を通じて得られる英語でのコミュニケーション力」である。
 しかし、一流事務所であるほどに弁護士の時間単価が高いために、経験の幅が狭くなりがちであり、自己の顧客を開拓しづらい環境であるとも指摘される。パートナー昇進が極端に難しいため(全世界のパートナー会議で審査されるため、東京市場が成熟している状況では、東京オフィスにパートナーを増やす戦略を描きにくい)、転職か独立を前もって意識しておかなければならない(外資系企業の社内弁護士の候補者としての適性は高い)。

2  企業
(1)  大規模法務部
 企業法務の修行にはOJTが不可欠であるが、企業でも、大規模な法務部を有する上場会社であれば「法務畑の先輩からの助言・指導を受けながら仕事を回せる」という利点がある。さらに、「社費留学」の可能性があることは、大手事務所への就職を上回る魅力とも言われる(法律事務所では、留学制度の縮小傾向(経済的支援の減額も含む)があるため、「給与を貰いつつ留学できる」ことの経済的価値は大きい。また、大企業所属の肩書は、留学先での人脈形成にもプラスに作用する)。
 他方、法務の部門長に昇進するためには、同世代間の出世競争を勝ち抜くことが必要である。社内評価では、リーガルスキルよりも、ビジネスセンスや社内調整等のマネジメント能力が試されるため、人事に不満があれば、他社への転職を考えることになる(職位を上げることを目的とすれば、同業のワンランク下や新興企業が対象となり、給与アップを狙えば、外資系を狙うことが多い)。

(2)  中小法務部およびベンチャー企業
 中小の法務部では「法務畑の先輩からの指導」を期待しづらいため、初心者にとっては、どうやって法務スキルを磨くかが最大の課題となる(自己流を避けるために、顧問である外部弁護士を師と仰ぐ者もいる)。
 特に、ベンチャー企業は、ビジネスリスクも大きいために若手からの人気は低い。キャリアを賭けられるだけの経営者と巡り会えたならば、目指すべきシナリオは「最初はわからないことばかりの『ひとり法務』でも、会社が小さいうちにミスを重ねながら(致命的なものだけは避けて)経験値を積んでいくうちに、ビジネスの発展と共に法務の取扱い分野も広がり、部下もできる」というものである。運がよければ、社内競争抜きに、上場会社の法務部門長の地位を得ることができる。また、上場でキャピタルゲインを手にした創業メンバーから、次の起業家や投資家が生まれてくれば、それらを顧客に取り込むことで法律事務所の外部弁護士として活躍するという成功シナリオもある。

Ⅳ  活躍期(35歳〜55歳)
1  法律事務所
(1)  大規模事務所
 法務キャリアで1億円以上の年収を稼ぎたい。そのような経済的目標を掲げるならば、法律事務での成功を追い求めることになる(企業において、管理部門である法務職で年棒1億円を超えるポストは見出しにくい)。
 弁護士業務は収益事業であるために、売上げを立てれば、それに応じた収入を得ることができる。例えば、シニア・パートナーとして、大型ディールや危機管理案件を自己のアカウントで請け負ったならば、案件を担当する多人数の弁護士の稼働をタイムチャージで請求することになる(一般論としては、パートナーには自己の収入の3倍以上の売上げを立てることが期待されているため、1億円の年収を確保するための目標売上高は年間3億円となる)。
 事務所経営への貢献度が高いのは売上げの高い弁護士(いわゆるレインメーカー)であるが、弁護士としての尊敬を集めるのは、特定法分野に関する卓越した知識や分析力で仕事をする弁護士(エクセレント・ロイヤー)である。ただ、国内のタイムチャージの単価には限界があるため、売上げ貢献度は、チームを率いるタイプに劣る(国内大手事務所のパートナーでも時間単価は5万円程度であるため、年間2000時間の稼働をチャージしても、弁護士1人分の総売上は年間1億円止まりである)。

(2)  中小事務所
 商業的成功を求めるならば、依頼者との相性が悪くとも、収益性が見込まれる案件を自ら取りに行く姿勢が必要である。これに対して、「弁護士=自由業」というストレスフリーを重視すれば、「気に入らない依頼者の相談は受けない」でも事務所を維持するために、経費(家賃や人件費)を低く抑えなければならない(売上げを伸ばして課税所得も増やしてしまうよりも、飲食費等を経費扱いすることで生活水準を向上させる方向への動機付けが働く)。
 ただし、リーガルマーケットには、毎年、大規模な事務所等で修行を積んだ若くて優秀な弁護士が競合者として現れてくる。依頼者を維持するための研鑽と情報アップデートは個人事務所でこそ危機感を持って取り組まなければならない課題である。

2  企業
(1)  国内系法務
 社内法務におけるキャリアを極めるならば、大企業の法務部門の長を目指すことになるが、管理職登用の人事では「同業種で同規模のチームを率いた経験」が最重視される。そのため、「どうやって初めての部下を持たせてもらうか?」が壁となる。
 この点、総合商社のように階層構造がある大規模な法務部であれば、後継者育成方法として、「チームリーダー」のようなポストからスタートして、関連会社や海外子会社の小規模な法務部長職を経由してマネジメント経験を積み重ねさせることができる。
 これに対して、規模が小さい法務部において、部長以下はスタッフがフラットな構造の場合には、スタッフとして優秀な人材を後継者に据えても、「いきなり部門長を任せられるか」という懸念は残る。そのため、転職市場を通じて、他社の法務マネジメント経験者も候補者に据えて比較しながら、次期部長の人選が行われることもある。

(2)  外資系法務
 国内系よりは、外資系企業のほうが、人材市場を意識して、前職の給与や他社からのオファーも考慮して年棒を決定できる給与体系を有している。そのため、高額な給与所得を目指す候補者にとっては、外資系企業のポストが魅力的に映る(一般論としては、金融機関の給与は事業会社よりも高めであり、事業会社内ではITやヘルスケア業界に高額なポストが見られる)、
 もっとも、外資系のほうが、経営成績に応じた人件費の調整に躊躇がない(特に好景気時に人員を増やして稼ぐ投資銀行は、景気が悪化すれば、人員削減が必須となる)。また、日本法人の法務部門は独立しておらず、本国のジェネラル・カウンセルを頂点とするラインの下流に位置付けられているため(アジア太平洋地区のジェネラル・カウンセル(香港やシンガポールに在住)を上司とすることが多い)、日本の法務のトップに就任しても、その権限と裁量には限界がある(アジア太平洋地区を統括するポストを任せられるまでの語学力や国際感覚を備えた日本人は乏しい)。

Ⅴ  円熟期(55歳〜)
1 大企業の法務担当役員
 企業内法務キャリアの最高到達点は、大企業の法務担当役員である。従前、法務は、他の管理部門を所管する役員が兼務することが多かったが、近時は、執行役員クラスでは法務専従のポストを創設する動きがある。候補者としては、同社の法務部長が内部昇進する経路が王道であるが、人材市場を通じて候補者を探る動きもある(外部候補者としては、同業他社(格下ではなく、より信頼性が高いと思われる企業)の法務部長経験者のほか、国際的な法律事務所のパートナーを、一定期間、見習いポストに置いてから昇進させる事例が現れ始めている)。

2 法律事務所の顧問/カウンセル
 弁護士業に定年はなく、かつては、創業者の引退は廃業を意味していた。しかし、収支共同事務所の中には、パートナーに定年制度(例えば65歳)を設けて、事務所経営を活躍期にある後輩パートナーに委ねる(創業者世代は、「顧問/オフカウンセル」といった経営に関与しないポストに退く)仕組みを設ける先が現れている。「顧問/オフカウンセル」の弁護士は、その年次と経験から、上場会社の社外取締役や監査役の候補者としての適性が高い(比較的に時間にも余裕があることを含めて)。

3 セカンド・キャリア
 会社における円熟期の人材には、再雇用制度を利用せずに、後輩が育っているならば、仕事を後輩に委ねて、定年後は、別の職場環境にセカンド・キャリアを求めたいという機運は高まっている。それが、人材市場では「弁護士資格がなくとも、法律事務所に、顧問又はカウンセルとして受け入れてもらえないか」という問合せにつながっている。
 定年後の会社員にとっては、社外役員のような非常勤ポストの声がかかるのを待つためにも、連絡を受けられる所属先(肩書、名刺、電話番号等)を確保しておきたいというニーズがある。その人脈が営業活動に貢献してくれるかもしれないという期待を法律事務所に抱かせることができれば、マッチングが成立する(経済条件としては、固定給よりも、案件獲得に応じた成果報酬的な取り決めが馴染みやすい)。

Ⅵ  結びに代えて
 本稿では、キャリアの頂点を、大手事務所のシニア・パートナーや上場会社の法務担当役員といった華々しい職に置いた。もちろん、仕事の充実度や本人の幸福度は、年収や社会的地位だけで定まるものではない(本音を言えば、個人事務所で悠々自適に仕事をできている弁護士がもっとも幸福度が高く、会社員であれば、株主からの短期的利益を追求されない非上場のほうが長期的視野で仕事に取り組めると考えている)。ただ、転職市場に出れば、総合商社の留学帰りとも競合するし、リーガルマーケットでは、大手事務所から独立したスピンアウト事務所とも見比べられてしまう。
 「活躍期」以降において、どのような価値を優先してキャリアを設計するかはそれぞれであるが、その現実的選択肢の幅を広げてくれるのは、「修行期」のハードワークから得られた経験である。

西田章 略歴
1999年弁護士登録、長島・大野法律事務所に入所し、経済産業省と日本銀行への出向を経て、2006年に独立。2007年に職業紹介事業の許可を受け、西田法務研究所を設立。著書に『弁護士の就職と転職』(商事法務、2007)があり、現在、商事法務ポータルにて「弁護士の就職と転職Q&A」を連載中。

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弁護士(第一東京弁護士会)で、キャリアコンサルティング&ヘッドハンティングをしています。著書「新・弁護士の就職と転職」(商事法務、2020年)。商事法務ポータルに「弁護士の就職と転職Q&A」を連載中 https://www.shojihomu-portal.jp/gyoukai