年俸2000万円の会社員よりも、売上2000万円の外部弁護士の方が幸せなこともある
所得金額だけを比較すれば、
― 法律事務所で年間売上2000万円の外部弁護士は、年間経費780万円(月額65万円)を費やしたとすれば、所得は1220万円になってしまうので、年俸2000万円の会社員よりも幸福度は低い、
という見方になる。
でも、実際には、必ずしもそうではない。その理由として、すぐに思い当たるものが2つある。
ひとつは、
― 会社員の市場価値は「年俸」で測られるが、外部弁護士の価値は「アワリーチャージ(時間単価)」で測られる、
という点だ。
もうひとつは、
― 会社員のキャリアは「ひとりの上司」に支配されてしまいがちだが、外部弁護士のキャリアは「ひとりのクライアント」に支配されるわけではない、
という点だ。
会社員は、基本的に、自分の労働力を、1社に対して「まとめ売り」しなければならない。そのため、自分を商品化する際に、
― 年俸XXX万円のフルタイムのポジションを受けるかどうか?
という括りでしか判断することができない。「このポジションを受ける」という選択は「現在の会社を辞める」ことを意味する。
これに対して、外部弁護士は、自分の労働力を時間単位で「バラ売り」することができる。そのため、
― 時間単価X万円の仕事を受けるかどうか?
という単位で受任するかどうかを判断することができる。基本的には、現在抱えている仕事との兼ね合いで、「次の案件を受ける余力があれば受ける」という判断が可能である。
そのため、「売上2000万円」と言っても、
(a) 時間単価1万円で、年間2000時間稼働(月次平均166時間)
と
(b) 時間単価4万円で、年間500時間稼働(月次平均41時間)
には生活スタイルに大きな違いがあり、(b)の方が(圧倒的に)幸せそうに見える。
(実際には、(b)の場合は、「毎月平均的に41時間を稼働している」という仕事スタイルよりも、「100時間を要するプロジェクトを年間5件こなしている(なので、締め切り前には結構多忙)」という、仕事量に波のあるスタイルを想定した方が現実味がある。)
もうひとつ、
― ひとりの上司に支配されるわけではない、
というのも、本人の主観的には相当に影響が大きい点だと思う。
これは、
― 上司が尊敬できないと、「自分よりも能力の低い上司に受けた評価を基に自分の社内の出世が左右される」のは不愉快
というのが第一に大きい。
ただ、それだけではない。
― 上司が優秀すぎると、その優秀な上司に、自分の勤務時間の100%を監視・管理されてしまう(ような気がする)
という場合におけるストレスも、けっこうツライ。
(もう20年前のこととなるが、ぼくは、この点、日本銀行に出向していた時に、「金融市場局と決済機構局の2つの部署を兼務している」という身分を得られたのに救われた。業務時間中に、座席にいなくても、金融市場局の人には「あれ、決済機構局の仕事をしているのかな?」と思ってもらえる(という期待があり)、決済機構局の人には「金融市場局にいるのだろうな」と思ってもらえる(という期待がある)というのは、非常に気が楽だった(実際にはサボっていたのは両部署にバレていたとしても)。)
法律事務所での勤務は(評判の良い事務所に勤務しているほど)業務過多になる。ただ、
― この案件が終わったら、二度と、このクライアントの仕事はしないぞ!
と思いながら、短期決戦のつもりで、歯を食いしばって仕事をしていると、結構、いい仕事ができたりして、パートナーやクライアントから思いがけずに褒めてもらえたりする。そうすると「喉元過ぎれば」で「もう一回くらいだったら」と、懲りもせずに再び案件を受けてしまったりする(で、次の案件が佳境に入ると「しまった!そういえば、この人たちと一緒に仕事するのは大変だった」と思い出す、ということを繰り返すことになる)。
それも、一旦は、
― こいつの仕事はもうこれが最後!(もう二度としない!)
と思えるからであって、これが、もし、最初から、
― 一生、このクライアント(このパートナー)の仕事を続けなければならない、
という「まとめ売り」の世界だったら、「そんな地獄、到底、続けられない」とドロップアウトするアソシエイトも多いだろう。
そういう意味では、本質は、
― 会社員か?外部弁護士か?
の違いにあるのではなく、
― ひとりの上司(又はクライアント)に対して、自分の生殺与奪権を与えない、
ということが重要な気がしてくる(法律事務所に勤務していても、特定のパートナーに専従していたら自由度は低いし、会社員であっても、副業ができれば、閉塞感は相当に緩和されるだろう)。
と書いて、「よし、締まった」と思っていたら、息子から「そのフレーズ、『鬼滅の刃』のパクリ?」と言われてしまった(汗)
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