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「大手法律事務所は『所内競争』が重要で、中小法律事務所は『対外的競争』が重要」と言われる理由

司法試験受験生に対して、大手法律事務所で働くことの大変さを指摘すると、
「だったら、中小事務所のほうがいいんですか?」
と言われるし、かといって、中小事務所で働くのも大変だと指摘すると、
「なら、やっぱり大手事務所のほうがいいんですか?」
と言われてしまう。

「大変さ」の質が違うことを整理した例としては、
― 大手事務所は、所内競争に勝ち残るのが大変で、
― 中小事務所は、対外的競争に生き残るのが大変、
という言い方がある。

大手事務所の特徴として、
― 新卒採用人数が多い、
― 毎年のパートナーの昇進人事は、グループ間のパワーバランスも踏まえた政治的交渉の影響を受けるため、パートナーになるためには、事実上、所属グループの推薦を得なければならない、
― 結果的に、アソシエイトは、所属グループ内で、新規パートナー枠を巡る同期間競争に参加させられてしまう(かつ、同期アソシエイトも優秀な弁護士ばかりなので、所内競争に勝ち残るのが大変)
― しかし、一旦、パートナーになることができたら、「大手事務所のパートナー」というブランドを用いた営業が可能になる(ただ、事務所運営に多額の経費を要するので、損益分岐点となる売上達成目標は高い)
という傾向が見られる。

これに対して、中小事務所の特徴として、
― 新卒採用人数が少ない、
― パートナー審査は基本的にネガティブチェックであり、同期を蹴落とす必要はない(クライアントの前にひとりで出して恥ずかしくないアソシエイトであれば、パートナーになれる)
― ただし、パートナーになってからは(特に事務所のブランドだけでクライアントが来てくれるわけではないので)自分の腕と才覚で客を獲得しなければならない(ただ、損益分岐点は高くないので、自分の取り分が少なくても良いならば、現実的な売上達成目標を設定することができる)
という傾向が見られる。

じゃあ、これを踏まえて、どういう違いがあるか?

今は、中小事務所からの採用の相談を受けることが多いので、「中小事務所に有利な点」を探してみると、
― アソシエイトが、自分のペースで成長できる、
という点が挙げられる。

大手事務所のように、何十人も同期がいて、同一グループ内にも多数のアソシエイトがいたら、その間での相対的な順位付けがなされて、
― コーポレート/M&Aグループの76期のエースは誰、
というようなレッテルが貼られてしまいがちである(本人が望むと望まないとに関わらず)。

そういう競争環境の中では、
― 今は、家族との時間を優先にして仕事を減らしたい、
というのは、戦線離脱表明のようにも受け止められてしまう(実際には、1年や2年遅れても、長い弁護士人生において大した問題はないのだが、77期、78期にも同様の競争があると「留年生」「落第生」的なコンプレックスを抱いてしまうこともある)。

これに対して、中小事務所であれば、そもそも、仕事を担当するチーム編成も「パートナー1人とアソシエイト1人」という単位が基本であり、そもそも「あるアソシエイトを別のアソシエイトと比較する」という機会に乏しい。また、
― 特に問題がなければ、アソシエイトは、皆、10年経てば、パートナーになれる、
という設定の中で動いているので、「今年頑張れなくても、来年頑張れば良い」という楽観的なペース配分も実行しやすい。

言い換えると、
― 大手事務所では、まず、「優秀なアソシエイト」を目指した所内競争が行われて(それには毎年の人事査定で経過報告がなされる)、それに勝ち残った者が、次に、「優秀なパートナー」を目指した対外的競争にエントリーする、という二段階競争が行われている、
のに対して、
― 中小事務所では、最初から、10年以上の長期スパンを念頭に置いて、「優秀なパートナー」を目指した対外的競争にエントリーする、という一段階競争が行われている、
というイメージである。

なので、もし、
「オレは、所内の内申書で良い成績を残してからでないと、対外的に活躍できない、なんてまどろっこしい!」
と思うならば、中小事務所で、最初から、クライアントを意識して働くのもよいかもしれない。

と書いたところで、先日、
― 中小事務所は、人柄がいい奴でないと残れない。ネームパートナーに嫌われたら、居場所がない、
― それに対して、大手事務所は『捨てる神あれば拾う神あり』だ、
と書いたことを思い出した。

う〜ん、もしかしたら、アドバイスが矛盾してしまっているかも(「中小事務所では、自分のペースで成長できる」と言っても、それは「同期よりもゆっくり成長させてもらいたい」という場合に限られるのかなぁ。「最速で活躍したい!」という受験生には、むしろ大手事務所が向いているのかも)。機会があれば、また改めて整理してみよう。


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