法律事務所への就活で「日本企業の海外進出支援業務に興味がある」と答える際の留意点
法律事務所への就活では、古くから、
「どんな分野に興味があるの?」
という問いへの回答を用意しておくことが基本とされてきた。
模範回答のひとつは、
― 個人的に特に興味があるのは●●法なので、その分野の仕事があれば、ぜひ関与したい。
― もっとも、弁護士として一通りの案件は扱えるようになりたいとも思うので、●●法に限らず、どんな仕事でもご縁があれば精一杯取り組みたい。
という二段階コメントである。
かつては、この「●●法」の部分は、選択科目から、
― 知的財産法(文系知財としての「エンタメ法」を含む)
― 労働法
― 倒産法
― 独禁法
― タックス
などと回答されることが多かった(そして、面接を担当するパートナーから「うちは独禁法やってないんだよ」とか「エンタメをやりたい修習生は多いけど、そんなに仕事ないよね」とか「国税とケンカしてまで税務訴訟をするようなクライアントはうちにはいないかな」と言われて、「しまった!」と戦略ミスに気付くことが多い)。
東日本大震災後の10年強の期間、大手法律事務所を中心に、日系企業のアウトバウンド支援のために海外オフィスを作るようになり(&海外赴任をした弁護士が独立して事務所を立ち上げる流れもあり)、採用の場面でも、就活生の想定問答においては、
― 日本の国内市場に成長余力がないため、日系企業も成長シナリオを新興国に求めざるを得ない
― 自分も、弁護士として、そのようなアウトバウンドを支援する仕事に携わりたい、
という回答例が加わるようになった。
私自身は、このようなアウトバウンドの流れを若干、冷ややかに眺めていたところもあり、商事法務ポータルの連載では、こんな記事を書いたこともあった(「Q6『海外進出支援』に向いている人材とは?」(2017年7月3日))。
私には、
― ジュニア・アソシエイトがいきなりアウトバウンドに専従するってどうなの?
という疑念がある。
なぜかというと、
・ 現在、アウトバウンドを得意としている50期代までのパートナーは、もともとインバウンドのM&Aで経験を積んできた弁護士ではないか。
・ 欧米系クライアントが、日本進出に際して、欧米系ローファームの下請けとして、現地代理人として、欧米方式のM&Aの仕事のやり方(DDを含む)を学んだ日本法弁護士が、自らの下請け業務経験を踏まえて、今度は、日系企業の元請けとなり、現地代理人を下請けとして仕事を発注する側に回ることで、良い仕事ができるのではないか。
・ 自らは、下請けたる現地代理人側の経験が持たないジュニアが、いきなり、日系企業のゲートキーパーとなって、現地代理人を効果的に活用することができるのか?
という問題意識がある。
でも、60期代以降のパートナーには、インバウンド経験がなくして、いきなりアウトバウンドから初めて成功されている先生もいるのかなぁ。。。。
ともあれ、私自身は、
― クロスボーダーをやりたいならば、まずは、インバウンド案件で経験を積むべきではないか、
という考え方を持っている。
それがアウトバウンド系弁護士の唯一のキャリアパスというわけではないのだろうが、50期代までの弁護士には、私と同様の考え方の面接官もいると思うので、そういう面接官に当たったならば、
・ ジュニアのうちから、アウトバウンドばかりをやりたい、というわけではありません、
・ 将来的には、日系企業のアウトバウンドで頼りにされるゲートキーパーになりたいので、そのために、ジュニアのうちはインバンドも含めてM&Aの基礎をしっかり学びたい、
みたいに回答を補足することでお茶を濁していただければ、と思う。