弁護士の就職と転職Q&A(対話形式編)「『一流企業が真に信頼する法律事務所はどこか?』(2018年5月)でインタビューした先の変化をどう解釈しているか?」 8 西田 章.. 2023年4月15日 10:54 ジュニア・パートナー「5年前、商事法務ポータルで西田さんが中規模事務所へのインタビューをした記事を読んで、当時は中規模事務所への移籍を真剣に考えました。」西田「2018年5月の『一流企業が真に信頼する法律事務所はどこか?』だね。でも、移籍せずに良かったね、無事に大手事務所でパートナーになれたんだから(笑)」ジュニア・パートナー「当時のインタビュー先の事務所は、この5年で随分と変化がありましたね。中村・角田・松本からは、この4月に、創始者の中村直人先生が独立されてしまいました。」西田「クライアント企業の法務部の方々も驚かれていたけど、『弁護士のキャリア』という観点からは『やっぱり、旧森綜合のカルチャーを受け継ぐ職人気質の先生は凄いな』と感じたな。還暦を過ぎて、ひとりで企業法務を実践できるパートナーは、もはや大手事務所には見当たらないんじゃないかな。」ジュニア・パートナー「でも採用市場での事務所の人気は落ちてしまうのではないですか?」西田「中村直人先生のブランドに魅力を感じていたミーハー的な転職希望者にとっては、中村先生の独立は、中村・角田・松本に応募する動機付けは下がるかもしれないけど、中村・角田・松本は、もともと、自立した弁護士の集まりだったので、リーガルサービスの質が落ちることはないし、クライアントもそれを理解しているので、真剣に会社法や金商法の専門家になりたい職人気質の候補者にとっては、依然として、魅力ある事務所だと思う。ぼくが5年前のインタビューを仁科先生にお願いしたのは、中村先生のブランド抜きに、事務所のカルチャーや仕事のスタイルに焦点を当てるためだったし。『あれだけ企業から評価の高い中村先生の仕事振りを一度は直で見てみたい』という候補者側のニーズはあるだろうけど、中村先生の独立後も、事務所を跨いで共同受任する案件に参加することで、その希望もある程度は叶えられそうだよね。」ジュニア・パートナー「旧森綜合、と言えば、潮見坂からも、3年前に、創始者の末吉亙先生が独立されて、KTS法律事務所を設立されました。法律事務所情報の口コミサイトでは、それが不安要素として指摘されていましたが。」西田「旧森綜合の先生方にとっては、1970年に森綜合を立ち上げたメンバーのお一人である古曳正夫先生のキャリアが影響を与えているのではないか、とぼくは勝手に想像してる。64歳で弁護士業務を辞めて、シルクロード研究家になられた、という古曳先生のご経歴は、商事法務のNBLの特集(『小特集 古曳正夫先生を偲ぶ』NBL1111号(2017年12月1日号))にも紹介されてるけど『還暦を過ぎたら、事務所経営は下の世代に任せて、趣味的に、好きな仕事だけに打ち込む』というのは、とてもカッコ良い生き方だと思う。」ジュニア・パートナー「法律事務所情報の口コミサイトでは、島田法律事務所に対しても『カリスマ的島田弁護士の引退後に各弁護士の専門性もない中でどうなっていくんだろう』とか、『未来に向けて勢いがあるような事務所ではないと思いましたので、本採用では応募しませんでした』といった批判が書かれていました。」西田「そういう方が応募を控えて倍率を上げないでくれることは、無駄な選考コストをかけないためにもよいと思います(笑)」ジュニア・パートナー「創業パートナーの引退は不安要素ではないですか?」西田「もし、カリスマ的魅力を備えたボス弁が、閉鎖企業のオーナー経営者から信頼されていて、ボス弁の営業力だけで事務所が回っているならば、ボス弁の引退は事務所の存続に関わる大問題だと思う。ただ、釈迦に説法で恐縮だけど、上場企業、それも、メガバンクや日本の製造業を支えるようなブルーチップの一流企業の法務部は、ちゃんとリーガルサービスのスピードと質とコストを考慮して事務所を選んでいますよね。」ジュニア・パートナー「確かに、島田はクライアントが優良であることでも有名ですよね。」西田「ぼくとしては、法律事務所に対して『勢いがあるかどうか?』を基準に転職先を選んでいる人がいることの方が驚きだなあ。『勢い』が何を指すのかわからないけど、案件を大量に受任していたら、1件1件のサービスの質が落ちてしまうし、短期に多数の弁護士を採用しても教育が行き届かないし、事務所のカルチャーも乱れてしまうから、事務所を急速に拡大させることのどこにメリットがあるのか、まったく理解できないな。」ジュニア・パートナー「最近、若者の間では、スタートアップの人気が高まっているので、法律事務所の評価でも成長を重視しているのではないでしょうか。」西田「う〜ん、その考え方もまったく納得できないんだよね。株式会社ならば、事業が拡大して時価総額が増えることで、株式報酬やストックオプションを貰う従業員にも経済的なアップサイドがある、というのは理解できる。でも、アソシエイトは、法律事務所の持分なんて持ってないし、パートナーになっても持分を第三者に譲渡するものでもないから、急速に拡大して、デキが悪いアソシエイトや性格が合わないパートナーが入ってくることはリスクでしかない、と思うんだよね。」ジュニア・パートナー「法律事務所情報の口コミサイトでは、桃尾松尾難波に対しても『事務所のパートナーが新しく事務所を立ち上げたり、留学帰りのアソシエイトがベンチャーに入ったりしているのを見ていると、なかなか事務所内部の風土は変わらないんだろうな』と書かれていました。」西田「『パートナーが独立する』という事象には、ポジティブな側面があると思うんだよね。私は、事務所の理想を『本来は、ひとりでも食っていける弁護士が、優秀な仲間と一緒に仕事をした方がいい仕事ができるから、共同事務所を経営する』と置いているから、『パートナー=一人前』という肩書きを得るに至った弁護士にとって、『一度、事務所のブランドを捨てて、自分の弁護士としての腕だけを信頼してくれるクライアントを獲得できるか?という挑戦をしてみたい』という発想はきわめて健全だと思う。逆に『誰も独立しない、分裂したことがない事務所』と言われてしまうと、『ひとりで食っていく自信がない【名ばかりパートナー】だけが集まっている事務所なんじゃない?』と勘繰ってしまう(笑)」ジュニア・パートナー「アソシエイトが辞めてしまう、という点はどうですか?」西田「アソシエイトが『大企業のインハウス』に転職したならば、『保守的な弁護士が集まる事務所なので、より安定したポジションを得たかったのかな』とか『ワークライフバランスを重視しなければならない家庭の事情が生じたのかな』という想像が働くけど、『ベンチャーに転職した』という事象に対しては『チャレンジングな若手を採用している』という解釈も成り立つんじゃないかな。『事務所内部の風土は変わらない』というよりも、事務所での仕事において『ベンチャーが面白い』と感じるような経験を積ませてもらったのだろうな、と想像するな。」ジュニア・パートナー「阿部・井窪・片山については、口コミ情報サイトでもネガティブな情報はひとつも見つかりませんでした。」西田「クライアントから信頼されているし、同業者からも尊敬されている事務所なので、噂好きな人にとっても悪口を言うのが難しい事務所なんでしょうね(笑)」 ダウンロード copy いいなと思ったら応援しよう! チップで応援する 8