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弁護士の就職と転職Q&A(対話形式編)「留学か?出向か?」

最近、法律事務所における研修制度を利用して、留学の代わりに、官庁への出向を希望するアソシエイトも増えている。その傾向を先取りして、司法試験受験生からも「出向」について尋ねられる。そんな質疑応答の模様を、以下、再構成してみたい。

司法試験受験生
「私は、あまり英語が得意ではないので、留学よりも、官庁への出向に興味があります。」

西田
「官庁出向は、経験としては面白いと思うけど、就活では、あまり『官庁出向に興味があります』とは言わない方がいいかも。」

司法試験受験生
「なぜですか?」

西田
「法律事務所にとって、採用選考は、本業たる弁護士業務を下請けしてくれるアソシエイトとしての適性を見極めるプロセスだよ。そこで、本業たる弁護士業務を差し置いて、『出向したいです』と言われてしまうと、『あれ、うちの事務所で弁護士としての腕を磨くことに興味がないのかな?出向に行ける事務所の方がいいのかな?』と思われちゃうリスクがあると思う。」

司法試験受験生
「なるほど。『留学に行きたい』というのも言わないほうがいいですか?」

西田
「渉外系の事務所で、面接を担当するパートナーたちも留学経験があるならば、『留学に行きたい』というのは、問題ないと思う。留学経験があるパートナーの殆どは『留学に行ってよかった』と思っているから、アソシエイトが留学に行くことに理解があると思う。留学に行くに際して、事務所からどこまで経済的な補助を支給するか、は論点になるけど。逆に『自分は留学に興味がない』と言われちゃうと、『あれ、この就活生は英語案件をやりたくないのかな?』とマイナス評価されてしまうかも。」

司法試験受験生
「経験者なら理解される、というロジックならば、官庁出向を経験しているパートナーに『出向に行きたい』と言うのはOKですか?」

西田
「それもケースバイケースかな。『留学』には一定の共通したメリットがあるのと異なり、出向は、いつ、どこの官庁に行ったのかで得られる経験は区々だから。」

司法試験受験生
「留学に共通したメリット、って英語力が向上する、ということですか?」

西田
「留学に行っても、日本人コミュニティで過ごして、あまり英会話力が伸びない、というケールもあるけど、留学経験を経歴に示すことで、対外的に『自分はクロスボーダー案件も扱います』という表明になるよね。」

司法試験受験生
「官庁はどこに出向するのがお勧めですか?」

西田
「官庁は、出向先の部署で何を担当するかによって弁護士復帰後の価値が決まるところがあるし、職場環境は、直属の上司のパーソナリティによっても大きく異なるよね。パワハラ系の課長に当たると大変。それから、『出向を終えて戻る先の法律事務所』の中での位置付けも影響してくる。」

司法試験受験生
「戻る先の法律事務所の中での位置付け、というのは?」

西田
「所属事務所の中で、自分が出向先の経験を活かした法分野での第一人者になれるかどうか、が大きいかな。同じ事務所から代々同じ部署に出向を出していたら、先駆者にはなれないので、『同じ専門分野の弁護士を何人も重複してパートナーにする必要があるか?』という出世競争にも影響してくる。」

司法試験受験生
「前任者がいない官庁に行った方がチャンスは大きいのですね。」

西田
「う〜ん、前任者がいないのは、単に『その部署にいっても弁護士業務にメリットが少ない』と思われていたからかもしれないよね。または将来性がある分野であっても『所属事務所のクライアント層とは被っていないから、その経験を活かせる事務所に移籍したい。』という転職相談も受けるよ。」

司法試験受験生
「『留学か?出向か?』というよりも、『留学にも行くし、それに加えて出向にも行く』という願いを叶えたくなりました。両方とも行けるとしたら、留学と出向と、どちらを先に行くほうがいいでしょうか?」

西田
「理想的には、官庁出向は、留学の後に行くべきだと思う。というのも、出向を終えた時点が、出向していた部署で所管していた法律についての専門性が最新のものになっているので、出向の任期終了後から弁護士として活躍できるのが望ましい。業界関係者からも専門家として認知してもらえているので、出向直後からクライアントに売り込める方が営業面での効果も大きい。それに比べて、出向した後に留学に出てしまうと、せっかくの最新の情報と人脈を弁護士業務に活かすことができなくなってしまう。そして、留学から戻って弁護士業務に復帰する際には、日本法の実務に空白期間を埋めるためのリハビリも必要になる。だったら、留学後に出向に行って、官庁での勤務期間をリハビリに充てられると効率がいいと思う。英語力を磨いた上で官庁で任期付任用の公務員として働けば、国際会議に参加させてもらったり、海外当局とのコミュニケーションの担当もさせてもらえるチャンスが広がるし。」

司法試験受験生
「そう聞くと、留学後に官庁出向に行けるといいですね。」

西田
「でも、留学から戻るタイミングで都合よく勤務開始できるようなポジションがあるかどうか。そういう求人情報をタイムリーにキャッチして選考を受けられるか、という問題もある。その点は、東京の事務所で働いているアソシエイトの方が機動的に面接を受けに行けそう。」

司法試験受験生
「もし留学前のジュニア・アソシエイトのうちに良い出向ポジションに遭遇できたら、官庁に行ってから留学、という順序もありですか?」

西田
「さっきは、出向経験を営業で活かせない、というデメリットを話したけど、出向経験は、留学準備の材料集めには役立つと思うよ。米国の有名ロースクールのLL.M.に出願する際に『Japanese Governmentでも働いていた』と履歴書に書いたり、役所の上司に推薦状を書いてもらえたりするのは、他の日本人弁護士の志願者との間で差別化できる要因になるよね。」


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