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シニア弁護士との対話:「法律文書の英訳術」(2)

シニア弁護士
「商事法務ポータルの柏木先生のインタビューを第3回も読んだよ。定年後の人生の理想像だね。バイクは70歳まででも、80歳になっても単著を書き下ろせるなんて。」

西田
「はい、商社から大学への転身を『人生二毛作』と仰っていましたが、定年後のご活躍を考えれば、『三毛作』だと思います。」

シニア弁護士
「三つ目が、仲裁人であったり、法律文書の英訳、というところが渋いよね。」

西田
「本のタイトルを『英訳論』とせずに、『英訳術』とされていることについても、改めて考えてみると味わい深いものがあります。『論』ならば、若くても、理屈を突き詰めれば書けるかもしれませんが、逆に『術』の方が、長年のご経験から滲み出てきたものが現れている気がします。」

シニア弁護士
「確かに、年齢を重ねてくると、仕事のスタイルとか目指すべきところも変わってくるよね。」

西田
「そう思います。若いうちは、受験勉強の延長線のように、向上心とか競争心が原動力になっていたと思います。先輩に追い付きたいとか、同期には負けたくないとか。」

シニア弁護士
「自分が専門だと思っている分野の論文が掲載されて、その執筆者が同期だと分かったりすると、イラついたね(笑)」

西田
「同期にとどまらずに、自分よりも若い修習期の弁護士が書いた論文も目に付くようになってくるんですよね。」

シニア弁護士
「いちいちイライラしていられなくなる。慣れてくるものだね。」

西田
「同世代以下の活躍を素直に喜べるのは、自分自身が『この分野ならば、他人に負けない』という分野を、ニッチでも持っているからだと思います。」

シニア弁護士
「そう考えると、キャリアチェンジはやっぱり難しいよね。」

西田
柏木先生ですら、東京大学に移られてから、同僚である他の教授たちにキャッチアップするために、商社で働いていた以上に忙しく勉強された、と述べられていますからね。ただ、そのようなキャリアチェンジに伴う『リ・スキリング』があったからこそ、二毛作、三毛作のキャリアで輝やかしい成果を収められたようにも思われます。」

シニア弁護士
「柏木先生のようなキャリアチェンジをせずに、現在の仕事を続けて行くにしても、本当は、中年になってからの『リ・スキリング』が必要なんだろうね。忙しい中で新しいことに取り組む時間と気力を捻出するのは大変だけど。」

西田
「法律事務所でシニア・パートナーになってしまうと、一応、キャリア双六の『上がり』で、あとは売上げが気になるばかりになってしまうために、足許の仕事に関わりがないことに時間を費やすことが難しくなりますよね。」

シニア弁護士
「頭のキレは鈍くなってくる気がする。老眼で細かい字も見えにくくなってくるし、深夜までの仕事も辛くなってくる。」

西田
「まさにそうで、身体的な『老い』を受けて、プレイヤーとしての弁護士スキルの衰えを考慮に入れた上で、『自分にしかできない仕事』『若い弁護士にはできない仕事』の領域を見出して行くべきな気がします。」

シニア弁護士
「『術』を磨く、という感じだね。」

西田
「はい。その『術』を磨いていける分野がないと、シニアパートナー以降の人生は、売上げを維持することに必死になるだけの寂しいものになってしまうと思います。」

シニア弁護士
「言葉に毒があるね。アソシエイトの教育もやりがいのある仕事だと思うけど。」

西田
「それは、パートナー側の見方ですよ。アソシエイトにとってみれば、稼働時間は『クライアントワークにビラブルアワーを付けて事務所の売上げに貢献するもの』という意識で、得られる経験値はその副産物に過ぎませんから。」

シニア弁護士
「ま、クライアントのためには変な成果物を出すわけにいかないから、アソシエイトの起案を添削しているんだけどね。」

西田
「そういう意味でも、働き盛りの50歳で、大学という研究・教育機関に転身をされた柏木先生のキャリアには清々しさを感じます。」

シニア弁護士
「50歳でリスクを取ったことが、逆に、普通の実務家だったならば働ける期間よりも長く、第一線でご活躍をされる結果をもたらした、と言えそうだね。幸せそうにも見える。」

西田
「柏木先生ご自身が、インタビュー後に『次から次に面白いものが出てきてそれらを追いかけた幸せな人生でした。好きなことばかりやってきた、ということですね。』と仰られていました。」

シニア弁護士
「今度は、弁護士の『幸福論』をテーマに本でも書いてみたら?『論』でなく、『術』でもいいけど。」

西田
「売れる本になる気はしませんが、ぜひ深掘りしてみたいテーマです。弁護士にとっての『幸福』は、ジュニア・アソシエイト時代、シニア・アソシエイト時代、ジュニア・パートナー時代、シニア・パートナー時代、そして、パートナー定年後の顧問/オブカウンセル時代と、年齢に応じて変わってくるものだと思うので。」

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