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『ひまわり求人』を読む(14)永井法律事務所

6月末に「従業員エンゲージメント」をテーマとするセミナーのコーディネーターを引き受けたこともあり、転職先としての法律事務所を分析する際にも「熱意を持って働ける職場」であるだけでなく、同時に「心理的安全性が確保された中で、健康で生き生きと働ける職場」であるかどうかを意識するようになった(弁護士業界には「仕事はできてクライアントからは信頼されているけど、アソシエイトにとってみれば、ただのパワハラ」的なボス弁がいまだに数多く生息しているので(苦笑))。

久々に、「ひまわり求人」の求人情報を見て、「ここならば、所属する事務所に対するエンゲージメントを高めつつ、取り組む案件に対しても高いエンゲージメントを持って弁護士業務に取り組めるだろう」と予感させられたのは、永井法律事務所の求人情報である。

永井法律事務所の代表である永井利幸弁護士は、ファイナンス法務で著名な片岡総合法律事務所の出身だ。

そのため、この事務所で働けたら、「取扱事件」に記載されている「大企業向けの専門性の高い企業法務案件(金融・決済、個人情報、IT・インターネット、不動産)」についての経験値を積めることは間違いない。

同時に、「働きやすさ」という点については、勤務場所については、「オフィスへの出勤を原則としていますが、家庭の事情等がある場合にはリモートワークで勤務いただくことも可能です」とされており、「仕事の進め方」については、「契約書、準備書面などの第一稿の作成を担当いただいた後、永井との議論、添削を経ていただきます」とされている。

昔から変わらない「弁護士のOJTの基本」は、
― ファーストドラフトをアソシエイトに担当させて、パートナーがそれを赤字で添削する、
という手法であり、この添削指導は対面で行う方が効果的である。その意味では、「すべてリモートワークで構わない」という事務所に対しては、「本当にそれでアソシエイトの教育は大丈夫なのか?」という疑念を抱かされる。この点、対面での議論と添削を受けられるのは、アソシエイトにとっては(自己の起案力の向上という観点からは)成長の機会の大きい事務所であることが窺われる。アソシエイトの成長に向けられた配慮と期待が存在することは、「法律相談や法廷には永井が同席します。これら経験を経て、いずれは一人で相談や期日出頭を行うことができるように成長していただきたいと考えています。」という文にも現れている。

同時に、毎日のオフィス出勤を強制するのではなく、家庭の事情等に基づいて「リモートワーク」も許容してもらえるのは、育児や介護との両立の面では、ありがたい配慮である(最近は、ママさん弁護士だけが育児を担当するのではなく、パパさん弁護士も育児を担当することが増えている傾向は強く感じる)。

この配慮は、「業務時間についての考え方」に記載されている「緊急案件や一時的な業務量の増加によりやむを得ず残業いただくことはありますが、ワークライフバランスを尊重し、必要最低限にとどめる予定です」という一文からも読み取ることができる。

企業法務を担う法律事務所において、「残業は一切ありません」という謳うボス弁は、「嘘つき」か「定型的な仕事しか請け負っていません」のどちらかである可能性が高い(アソシエイトを信頼せずにひとりで仕事をするタイプもいるか)。依頼者からの信頼を受けている法律事務所ならば、依頼者からの緊急案件の相談に対して「業務時間を過ぎましたので」と追い返すようなことはできない。他方、恒常的に残業が続いている状態を容認することは、アソシエイトの身心の健康を危険に晒していることを意味する。

その点、残業が例外的に発生することを自白しながらも、残業を最小限にとどめる姿勢を示すことが、「クライアント企業からの信頼に応えること」と「アソシエイトのウェルビーング」を両立するために誠実なボス弁ができる精一杯である。

「高い専門性」と「誠実さ」を兼ね備えた代表弁護士が設立した法律事務所に、優秀なアソシエイトが参加して、エンゲージメント高く仕事に取り組めば、アソシエイトの成長と共に、事務所としても更なる成長を遂げていくことが見込まれる。

と書いて終わろうとしたところで、上記「その他条件(自由記載)」に「独立開業志望者も歓迎します」という一文を見付けた。業界的には「アソシエイトが独立してしまったら、自分の専門分野の競合相手になる」という恐れを抱いて、アソシエイトの独立を嫌がるボス弁も多い(そして「転職するならば、インハウスになって仕事を持ってきてもらいたい」と願ったりする)。ただ、その姿勢には、「自分はお世話になった事務所を卒業させてもらって自分の事務所を設立しておいて、自分のアソシエイトに対してはその独立を阻むのはどうなのよ?」という素朴な疑問が生じる。

そんな状況においても、永井法律事務所には「アソシエイトが真の意味で一人前となり自立することをサポートする姿勢」が垣間見える。例えば、永井法律事務所のウェブサイトには、代表弁護士がこれまでに数多くの論文を金融の業界誌等に執筆してきていることが紹介されているだけでなく、最近では、アソシエイト弁護士との連名でも論文を共同執筆していることが示されている。

アソシエイトにとってみれば、論文の執筆は(自分自身の知識の整理に資するだけでなく)自分の専門性をアピールして顧客開拓のきっかけになる(編集者とのコネクションができれば、新規法分野を勉強する際にも「論文掲載」というアウトプットを目標に置くこともできるようになる。)。

事務所としての理想像は「独立しても食っていけるアソシエイトが、敢えて、育ててもらった事務所に留まり、今度はパートナーとなって一緒に事務所を大きくしていく」という姿なのだろう。


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