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(備忘録)補足説明(転職エージェントのアドバイスで転職活動の軸がブレることの危険性)

備忘録「転職エージェントによる法律事務所のネガティブ情報を用いた代理戦争の不毛さ」については、「具体的にどういうこと?」「何が言いたいの?」という指摘もあった。

共感は得られないかもしれないが、一応、単純な事例を用いて補足説明を試みてみたい。

まず、前提として、「理想の法律事務所(質の高いサービスを提供していて素晴らしい経験が得られるし、給与も高くて、仕事も緩い)」なんていう事務所は存在しない。質が高いサービスを提供するためには、厳しい仕事にも耐えなければならない場面が生じる。仕事が緩い事務所では、良い経験は積めない。

また、アソシエイト時代の給与が高いことは、本人のプライドを満たすことはできても、「終身雇用」ではない法律事務所においては、生活は保証されない。弁護士のキャリアは、アソシエイト時代よりも、パートナーになってからの方がずっと長い。そのため、生涯収入を増やしたければ、アソシエイト時代の給与ではなく、「パートナーになってから稼ぐこと」を考えるべきである。アソシエイト時代の給与は「自分の時間の切り売り」のため、「高い給与≒長時間労働」である。他方、パートナーになってからの収入は、自分ひとりではなく、アソシエイトも含めたチームで提供する方法もある。また、ひとりでアドバイスをするだけでも、「高い専門性」は、時間単価を引き上げることにもつながる。「クライアントからのリーガルフィー≒リーガルサービスの質の高さ」であり、必ずしも「長時間労働」だけでない工夫もありうる。

別に、私は、
― 「生活の質(QOL)の向上を犠牲にして、仕事に打ち込むべき」
と主張したいわけではない。むしろ、QOLの向上は、本当に大事だと思っている。ただ、
― 人生全体を通じて、QOLを向上させるためには、少なくとも(ジュニア)アソシエイト時代は、経験値の獲得を最優先事項にすべきではないか?
― (ジュニア)アソシエイト時代に、経験値を積んで弁護士としての成長しておくことが、パートナー世代になった後でのQOLの向上への投資になるのではないか?
という発想は抱いている(この発想自体も、70期代には共感されなくなってきつつある、というのが、前回の備忘録である)。

そこで、仮に、この発想に共感するアソシエイトが「今いる事務所では、自分の成長が鈍化している。」「もっと自分を成長させられる事務所への移籍を検討すべきではないか?」という問題意識を持ったとする。

図解1

そして、転職エージェントから、転職候補先Aを紹介されて、「ここならば、より適切な経験を積むことで、自分をより成長させることができる!」という見通しを得られたとする。

図解2

でも、ここで、別の転職エージェントと話をすると、「ひとつだけを見て転職を決めるのはよくない」「もっと他の事務所も比較検討して進路を決めるべきだ」というアドバイスがなされる。このコメント自体は、その通りのようにも聞こえる。

図解3

ただ、ここで、転職候補先Bが検討の俎上に載ると共に、候補先Aに対するネガティブ情報として「労働時間が長い割に、給与はそれほど高くない」という口コミ情報が寄せられるとする。

図解4

そうすると、転職候補先Aと、転職候補先Bを、「企業への就職先としてどこが優良企業か?」的な視点で分析すると、確かに、「時間当たりの給与が高いBのほうが優れている」という結論にもなりかねない。

でも、ここでは、そもそも「自分をより成長させたい」という視点で転職活動が始められた趣旨が曲げられてしまっている。もしかしたら、転職候補先Bは、経験値獲得の面では「△」であり、現事務所(「○」)よりも劣っているかもしれない。

図解5

現事務所から転職候補先Bへの転職は、結果的に、単に「給与を上げるための転職」に過ぎないものとなってしまう(繰り返しになるが、終身雇用ではなく法律事務所において、アソシエイト時代の給与の高さが保証されるのは短期間である)。

っと、補足説明をしてみても、「それでも、短期間でも給与が上がるのはよかった」「また給与の保証が切れる時が到来したら、その時はインハウスに転向する」という感想が聞こえてくるような気もする(「インハウスに転向すれば生存権が保証される」という期待感もそろそろ限界なんじゃない?という警告を発したい衝動は抑えておいたほうがいいだろうな。少なくとも「人材不足」「買い手市場」が続いている間は)。


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