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『ひまわり求人ナビ』を読む(1)弁護士人材市場の情報プラットフォームとしてのポテンシャル

Googleで「ひまわり求人ナビ」と入れて検索をすると、まず、冒頭には、民間の人材紹介業者による「ひまわりにない新着求人が急増中」といった広告が表示される。それほど、日弁連が運営する「ひまわり求人求職ナビ」は、弁護士を対象とする人材紹介を行う業者にとって意識しなければならない存在だ。

アソシエイト層に対して直接応募を促すことができる求人情報プラットフォームが、「掲載料無料」で上手にワークするならば、これは、「転職が成立したら、採用した人材の初年度年俸の30%」などの料金体系を設定している紹介業者のビジネスモデルを破壊するだけの影響力を持っている(はずである)。

ただ、それでも、民間の紹介業者が諦めずにビジネスを続けているのは、このサイトの「使い勝手の悪さ」にある(とぼくは推理している)。何しろ、このサイト、読みにくい。

https://www.bengoshikai.jp/kyujin/link.php

ひまわり画面全体2

結果的に、「ひまわり求人ナビを定期的に閲覧しているのは、営業先を探している人材紹介業者だけ」と批判されることもある(ひまわり求人に掲載すると、事務所の採用担当者には(応募者からではなく)人材紹介業者から「採用をお手伝いしますよ」というセールスの電話が来る、と言われている)。

ところが、昨日、久しぶりに「ひまわり求人ナビ」のサイトにアクセスして驚いた。なんと、「弁護士の定着率」を示す項目(過去の採用数と在籍数)が追加されていたのである。

過去の採用数0版

何年も見ていなかったので、この項目がいつ追加されたのかは知らないが、これは、スゴイ試みだ!と思った。「民間紹介業者には絶対にマネ出来ない芸当」だと思った。

なぜなら、民間の紹介業者であれば、クライアント(報酬支払いを期待する先)に対して、
「うちのサイトに載せるためには、貴事務所の退職者数を示してください」
なんて言えるはずがない。でも、キャリアを考えるアソシエイトが知りたい情報のひとつでもある。

ぼくが、2007年12月に「弁護士の就職と転職」(商事法務)を出した時に、もっとも読者から好評だったのは「大手法律事務所の新卒採用者の定着率」の表だった(弁護士会の図書館で「自由と正義」のバックナンバーを20年分遡って、大手事務所に新規登録をした弁護士の人数をカウントした苦労が報われた思いがした)。

「弁護士の定着率」

ひまわり求人の管理者が、ぼくの本を参考にしてくれたのかどうかはわからないが、これは明らかに「転職者目線」の設計である。

なお、ぼくは、「アソシエイトが退職している事務所はブラックなので、応募をやめたほうがいい」と考えているわけではない。このことは、以前、商事法務ポータルの連載でも述べたところだ(「弁護士の就職と転職Q&A Q67「『アソシエイトが辞める事務所』への応募は避けるべきか?」2019年2月18日」。

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事務所の卒業生が独立したのか?それとも、インハウスに行ったのか?より大きな事務所に移ったのか?それとも外資系に移ったのか?という「その後の進路」は、入所を検討するアソシエイトにとってみれば、大きな関心事である。

その議論の前提となる情報を正面から掲載させようとしたサイト運営者の心意気には感動したし、それに応じて、「恥ずかしさ」を感じながらも、それを開示して求人情報を掲載する法律事務所にも尊敬の念を抱く(事実を隠そうとする経営者よりも、自分達に都合の悪い情報でも誠実に開示しようとする経営者の方が素晴らしい、という原則は、企業だけでなく、法律事務所においても当てはまるだろう)。

今後は、「ひまわり求人」に注目して、ぼくの視点で、その「読み方」を述べていけたら、と思っている。ぼく自身は、「直接応募でも成立する案件について、紹介手数料欲しさに紹介業者が関与すること(無駄な取引コストを生じさせること)は、『付加価値』ではなく、『負荷価値』だ」という信念を持っているので。

最後に、57年も前に、弁護士業界における人材の流動性の重要性を指摘していた論文(長島安治「弁護士活動の共同化―ロー・ファームは日本にできるかー」ジュリスト1965年3月15日号55頁)を引用しておきたい。

「わが国では弁護士の流動性が極めて小さいことである。米国の大ロー・ファームの成功を支えているものの重要な要素の一つとして、法律家の流動性の大きさを無視することはできない。」
「米国では、法律家の流動性が大きく、アソシエイトとして大ロー・ファームに入ってきた弁護士が、途中から企業、行政機関、立法機関、大学等へ出て行き、または中小のロー・ファームのパートナーとなるために、もしくは地方で開業するために出て行くことは、日常茶飯事となっている」

長島先生の論文を読み返してみても、「法律事務所の求人情報」だけでなく、「企業・団体等の求人情報」や「官公庁・自治体の求人情報」まで網羅している「ひまわり求人サイト」が情報プラットフォームとしてスゴいポテンシャルを秘めていることに気付かされた。





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