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弁護士の就職と転職Q&A(対話形式編)「転職のタイミングは留学帰りが望ましいか?」

大手法律事務所のジュニア・アソシエイトからのキャリア相談に関する質疑応答の模様についても、自分の頭の整理を兼ねて、対話形式に再構成しておきたい。

ジュニア・アソシエイト
「大手事務所のアソシエイトからの転職相談は、留学帰りのタイミングが多いのでしょうか?」

西田
「そうですね。海外に行って事務所から物理的に離れると、精神的にも自由に考えることができる環境の中で、他の事務所から来たアソシエイト等とも交流を持つので、『事務所に戻った場合のキャリア・シナリオ』とは別に、『事務所に戻らなければ、どういう選択肢があるのか?』を比較検討したくなるみたい。また、手持ち事件がゼロになっているので、『自分が抱えている案件の引き継ぎに迷惑をかける』ということもないので、転職の障害が少ないタイミングではある。でも、だからといって、みんながみんな転職するわけではなくて、結局、『一旦は、事務所に戻ります』と思い留まる事例も結構多いよ。」

ジュニア・アソシエイト
「なぜ、転職を思い留まるのですか?」

西田
「ひとつには、『留学で貯金を使い果たしてしまったので、帰国したら、しっかり稼ぎたいけど、経済条件からすれば、もとの事務所に戻った方がいい』という判断もある。それから、留学中に子供が生まれたようなケースでは、『小さい子供を抱えて仕事を再開するには、もとの職場の方いいかも』と考えるケースもある。」

ジュニア・アソシエイト
「大手事務所に戻るよりも、インハウスになった方がワークライフバランスを保った働き方ができるのではないですか?」

西田
「確かに、企業ならば、午後6時まで働いたら『フルタイムの正社員』だけど、大手事務所だと『時短勤務』と言われてしまうよね(苦笑)。ただ、新しい職場で、ゼロから信用を獲得しなければならない場面で、小さいお子さんの育児との両立は不利、という見方もある。留学前に、事務所で一定の評価を得られているのであれば、留学前の『信用貯金』がある職場の方がわがままを言いやすい、という面もある。実際、『ちょっと保育園に行くために仕事を抜ける』みたいな行動は、法律事務所の方が自由にできる面もあるからね。」

ジュニア・アソシエイト
「時短勤務のままでパートナー昇進は難しいですよね?」

西田
「そうだね。確かに、同期間で最速でパートナーになりたい、というニーズには応えるのは難しいと思う。ただ、大手事務所も、最近は『ダイバーシティ』を意識しているので、女性パートナーを増やしていきたい、という姿勢も窺われる。実際にも、『カウンセルからパートナーへの内部昇進』も増えているので、『プライベートの比重が大きい時期は、カウンセルで』という方針も、一般的な選択肢になりつつあると思う。」

ジュニア・アソシエイト
「別にパートナーにならなくても、カウンセルのままでいてもいいですしね。」

西田
「う〜ん、ぼくはその点には懐疑的だなぁ。過去に、米国の法律事務所で『責任あるパートナーになるよりも、カウンセルになりたい』という若手が増えた時期があったらしいけど、その後、不景気が来たら、カウンセルクラスを対象にした大規模なリストラが行われた、と言われている。『年次が上がってアワリーレートも高くなっていながら、売上げに責任を負わないでいい』というカウンセルの身分は『事務所全体の売上げが順調に確保されている』という前提条件が崩れてしまうと、途端に不安定な立場に陥ってしまうリスクがあるんじゃないかな。」

ジュニア・アソシエイト
「いずれにせよ、将来、転職するとしても『留学には行っておいたほうがよい』というお考えですね?」

西田
「将来の転職先にインハウスを想定しているならば、『留学には行っておいたがよい』と思うな。」

ジュニア・アソシエイト
「インハウスには留学が必須で、他の法律事務所への移籍は留学が不要、という場合分けになりますか?インハウスでも、日系企業の募集要項を見ると、英語力を求められないポジションもあると思いますが。」

西田
「日系企業では、英語ができなくても採用してくれるポジションはある。でも、会社に転職した後のキャリアを考えると、留学に行っておいた方が可能性は広がると思う。というのも、日系企業も、人口減少の国内マーケットだけでは成長シナリオを描けないので、中長期的には海外売上げ比率を高めていく計画を持っている。担当者レベルでは『英語不要』であっても、法務の責任者には、海外リーガルリスクも見られる人を配置することになるから、留学していないことが、後から出世に響いてくることがありそう。自分が長く勤めている会社に、後から、留学帰りの弁護士が自分の上司のポジションに転職してくる、というのは、あまり気分が良いものではないかも。」

ジュニア・アソシエイト
「なるほど。他の法律事務所への移籍では、留学は必要ではないのですか?」

西田
「もちろん、英語力があった方が望ましいことは確かだけど、中小の法律事務所では、一流でも、英語案件を殆ど扱わない事務所も存在する。中小の法律事務所においては、生え抜きを重視して、家族的な雰囲気を大事にする事務所も多い。そういう事務所では『当事務所の文化を理解していないシニア・アソシエイトを採用することで、事務所の雰囲気を崩さないか?』と懸念されてしまうこともある。こういう事務所では『理想は新卒からうちで教育を受けたアソシエイト』を大事にしているので、仮に中途を採るとしても『ジュニアのうちに当事務所で改めて教育し直すことができること』を求められやすいね。」

ジュニア・アソシエイト
「留学帰りにインハウスへの転職が多いのは、採用側の事情も影響しているのですね。」

西田
「法律事務所の中でも、規模が大きい、準大手事務所などでは、大手事務所からの留学帰りに対する採用ニーズは高いと言える。ただ、本人の側として『大手事務所でクオリティの高い仕事に従事してきた』という自負があるため、『準大手にランクを落としたと思われるのは嫌だ』という考慮が働いてしまうこともある。なので『転職するならば、まったく違うタイプの仕事をしたい』という思いを聞かされることは多いね。」


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