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『ひまわり求人』を読む(13)英和法律事務所

法務の人材市場にも人材紹介業者が参入してきて、「弁護士も転職時にはエージェントを使う」という慣行を広めている。

でも、「転職エージェントが勧めてくる先が優良事務所である」と考えてしまうのは早計である。「エージェントを利用する=採用コストを投じている」というのは確かだが、元来は「アソシエイトが頻繁に辞めてしまう事務所」や「弁護士業務をビジネスとして捉えて、新規分野開拓のための先行投資としてアソシエイトを増員する」という事例からエージェントの利用は広まってきている。

なので、

パートナーが自分たちの目の届く範囲で地道にリーガルサービスを提供する(広告費を投じてビジネスを急拡大する必要もなく、案件を通じて自然に仕事が増えていくのを待つ)

とか

 新卒採用したアソシエイトには、パートナーの仕事を手伝ってもらいながら、徐々に個人事件を増やして自分で食っていけるようになってもらいたい(独立しても構わないが、事務所のパートナーに内部昇進してもらって事務所を盛り立てていってくれるのは歓迎)

という伝統的なスタイルで運営されている法律事務所であれば、採用にエージェントを利用する必要もなかった。

今回、ひまわり求人に求人情報が掲載された「英和法律事務所」は、そのような伝統的なスタイルの事務所のひとつである。

3人のパートナーは、

― 公認会計士資格とダブルライセンスを持ち、監査法人での勤務経験もあるため、税理士・会計士との共通言語も有しているため、企業法務の中でも、税務会計との交錯する分野に強みを持つ代表弁護士(原口昌之弁護士(52期))

― 大手法律事務所出身で米国への留学も経た上で、IT企業の社内弁護士を通じて「法務部門の組織作り」にも経験豊富なパートナー(秋元芳央弁護士(52期))

― 新卒採用された事務所で、パートナーの案件をアソシエイトとして担当しながら、案件を通じて得たクライアントからの信頼をベースに自らの顧客も開拓して内部昇進したパートナー(坂井陽一弁護士(63期))

と、それぞれの経歴を活かした得意分野が補完し合うことで事務所の幅広い業務分野を支えていることが理解できる。

採用市場において派手な宣伝をすることがないため、修習生への知名度は低いが、顧問契約の継続や案件のリピート率が高いことがクライアントからの信頼の厚さを物語っている。

「事務所の特色」というと、つい、修習生は「尖った専門性」を求めがちであるが、現実には、クライアント企業が抱える法務関係の相談事項は多岐にわたる。弁護士が「私の専門はこの法分野だけです」と限定してしまえば、そこに収まらない相談事項は他の弁護士に委ねられてしまうことを覚悟しなければならない。

就職先としての英和法律事務所の魅力のひとつとして、クライアント層においても、業務分野においても、幅広い守備範囲を持っていることが挙げられる。

クライアントは、
― プライム上場会社
もあるが、それに限らず、
― スタンダード上場会社
― グロース上場会社
もあれば、
― 上場を目指すスタートアップ
― 未上場のオーナー系企業
も存在する(スタートアップの上場時に、社外役員就任を依頼されることも、クライアント企業からの信頼の厚さを示すものであろう)。

それだけでなく、
― オーナー会社の経営陣を含む個人クライアント
からの相談も受けている。税務とのクロスオーバーする分野として、
― オーナー系企業の事業承継
にも強みを有することが想像される。

法務分野的にも、
― コーポレート分野(会社の組織変更や株主総会関係の指導)
に限らず、
― 紛争分野
までカバーされている。

就職先としての魅力は、キャリアプランにも存在する。パートナーに内部昇進している坂井弁護士の経歴が示すように、
― ジュニアアソシエイト時代は、パートナーの仕事を手伝いながらも、
― 個人事件が許容されているため、個人事件を少しずつ増やしていくことで、「自分のクライアント」も開拓していく、
という実例が存在する。

最近では、弁護士の就活や転職活動においても、エージェントから配布される「求人票」を見比べて、
― どちらの給与が高いか?
を定量比較して応募先を決める若手が増えている。

しかし、弁護士キャリアの経済的な成否は、アソシエイト時代の給与体系で決まるわけではない。アソシエイトという「給料を期待できる立場」でいられるのはせいぜい10年であり、むしろ、その先に、「独り立ち」してからのキャリアの方がずっと長く、かつ、上振れ幅も大きい。

極論すれば、
― アソシエイトの給与(固定給)が高い事務所は、事務所案件の下請けに忙殺されることの対価が高いだけ
とも言えるため、
― アソシエイトとしての給与(固定給)は生活保証として割り切って、案件の成果報酬や個人事件でアップサイドを狙っていく、
というのが、弁護士の伝統的なキャリアモデルであったことを思い出してみてもよいのだろう、と思わされた。

英和法律事務所では、最も若いアソシエイトは73期であるため、74〜75期の弁護士を対象として「新人代わりの第二新卒」の採用ニーズがある。「企業法務系事務所できちんとした修行を積みたい」という思いと「コーポレートや紛争解決全般について一人前の弁護士となり、いずれは独り立ちしていきたい」という思いを両立できる環境を探している74~75期にとっては、転職エージェントに相談する時間があるならば、先に英和法律事務所のひまわり求人の情報を確認してみるべきであろう。


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