備忘録/弁護士の就職と転職/「大手法律事務所に長く勤めていると市場価値が下がる」と脅されるのはなぜか
大手法律事務所で最先端又は大型案件に従事することは、良い経験であることは確かです。激務に耐えて経験を積み重ねているにもかかわらず、転職エージェントから「年次が上がると市場価値が下がりますよ」なんて言われたら、不愉快になるのも当然です。
ただ、人材紹介業をしていると、(大手法律事務所に限らずに)「若い人を欲しい」という採用ニーズが最も多いことに気付かされます。これは、「先住民からしてみれば、自分よりも若い人に来てもらわなければ、自分の仕事が楽にならない」という意味である場合が多いかな。
ともあれ、どこにいても、
「年次が上がるほどに選択肢は狭まってくる」
という部分はあります。もう少し言い換えて、
「年次が上がるほどに、あたらしいことをやりにくくなる」
「今まで積んできた経験から軸足を動かしづらくなる」
というほうが伝わりやすいかもしれません。
これは、どこで働いていても同じなのですが、大手法律事務所のアソシエイトは、これまでに受験競争で成功してきて、就活も簡単に決まった人たちばかりなので、
「自分が望めば、どこでも受け入れてくれるだろう」
と過信してしまっている人も結構な数でいます。感覚的には、
「偏差値の上の学校から、下の学校にはいつでも転校できる」
という発想が、転職市場にも通じるという慢心が見え隠れしています。
そのため、年次が上がってから、家族的雰囲気を持つ中規模事務所に応募したところ、
「大手からだったら、いつでも移籍できると思われたら困るんだよね」
「キャピマだけやってきた、と言われても、うちにはキャピマ案件なんてないけど」
と、初めて自分が拒絶される経験をしてショックを受ける、という場面に何度も遭遇してきました。
なので、キャリア・コンサルタントとして、ぼくが大手法律事務所のアソシエイトに伝えていることは、
「あなたが、今の事務所で(シニア)パートナーになって働くことをキャリアのベストシナリオに描いているならば、ぼくは転職を勧誘しないけど、もし、『この事務所でパートナーになりたいとは思っていないけど、とりあえず(留学まで)勤務を続けようと思う』というならば、『今しか受け入れてもらうことができない先』に移籍した場合の未来を考えてみる必要はないか?」
という問い掛けです。
だって、(周り道せずに20歳代で弁護士になるエリートにとってみれば)アソシエイトでいる期間は10年程度ですが、パートナーになってからの期間はその後に20年以上も続くことが想定されており、「パートナーとして、どんなクライアントのために働くか?どんな種類・規模の案件を扱いたいか?」こそが、キャリアの成否を分ける重要な問題になるから(ぼくは、「企業法務系弁護士のキャリアのピークは40歳代以降に来るものである」と信じているので)。
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