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ひまわり求人を読む(15)消費者庁(公益通報担当)

10月に司法研修所で修習生向けにスピーチをすることになり、この週末は「自分が修習生からやり直すとしたら、どんな弁護士キャリアを狙うかな」ということを考えている。

「これからの弁護士に専門分野は必須だなよ」と考えると、「専門性を身に付けるには(又はそれを対外的にアピールするには)やっぱり、官庁の任期付任用が手取り早いよな」と短絡的に考えて、ひまわり求人の「官公庁・自治体用」の求人を閲覧してみた。

今回、最も気になった求人は、
消費者庁 参事官(公益通報・協働担当)
だ。

時事ネタに振り回され過ぎるのもよくないが、しかし、弁護士業務にも「トレンド」がある。「危機管理」「不祥事調査」がここまで(企業法務系)弁護士の主要業務としての地位を持続的に保持するようになるとは、ぼくが人材紹介業を始めた頃(2007年)には想像もしていなかった。

メディアを賑わせたジャニーズ事務所の「外部専門家による再発防止特別チーム」の「調査報告書(公表版)」(2023年8月29日)では、「本事案の背景」の「ガバナンスの脆弱性」のひとつとして「内部通報制度の不十分さ」が掲げられており、そこでは、

「社員が内部通報制度に社内の法令違反等を通報すると自分が不利益を受けるのではないか、内部通報しても自浄力はないのではないかなどという懸念を有していると内部通報制度が活用されない例が少なくない。
 特に、今回のジャニー氏の性加害が社内で「タブー」として取り扱われた「企業風土」や、性加害を受けたジャニーズJr.による被害申告が困難であった状況等を考えると、内部通報制度を設置すればそれでよいというわけではなく、社員が内部通報制度をいかに活用しやすくするかを検討する必要がある。」

と述べられた上で、

「通報・相談の窓口が上記のコンプライアンス推進室という内部窓口に限られている点も問題である。」「より活発な内部通報制度の活用を促すためには、内部窓口に加えて外部窓口を設置し、通報者の保護に対する安心感を持たせるべきであろう。」

との提言がなされている。

また、ビッグモーターの特別調査委員会の調査報告書(2023年6月26日)においても、「再発防止策の提言」の「現場の声を拾い上げるための努力」には「内部通報制度の整備」が掲げられており、そこには、

「従業員らにとって、不正の情報等の申告は敷居の高いものであるから、内部通報制度の整備とその実効的な運用による補完は不可欠である。」
「特に、当社は、法令上、公益通報対応義務に従事する者を定めるほか、公益通報に適切に対応するための必要な体制の整備をとることを義務付けられている。
 したがって、当社においては、内部通報制度が実効的に運用されることの重要性を十分に認識した上で、外部専門家の助言を得ながら同制度を整備し、従業員向けのコンプライアンス研修等のあらゆる機会を利用して、同制度の利用を積極的に働きかけることが必要である。」

との提言がなされている。

これらを読むと、今後、企業法務弁護士の業務として、「内部通報制度」の「外部窓口」としての役割や、「内部通報制度が実効的に運用されるための専門的助言」や「従業員向けのコンプライアンス研修」などの仕事が増えてくることが十分に予想できる。

そんな下心を持ちつつ、ひまわり求人を読んでみると、「想定される主な担当業務」は、以下のように記載されている(ひまわり求人で引用されている消費者庁のHP上の「政策企画専門官(任期付職員/公益通報)の募集について」の「職務内容」をスクショしたもの)。

この職務内容の「行間」を積極的に解釈すると、「このポジションで経験を積めば、任期を終えた後に、外部弁護士として活躍できるのではないか!」という期待が膨らんでくる。

つまり、公益通報者保護法に関して、
― 政令改正
― 法執行
を通じて、法律家としての専門性を高められるだろう(これは、ほぼ確実!)。

さらに言えば、
― 民間事業者に対する実態調査
を通じて、外部弁護士に復帰した後のマーケティングに役立つ人脈を形成することもできそうである(これは、希望的観測)。

また、留学を控えているアソシエイトにとってみれば、
― 国際機関対応(OECD等)に関する業務
を通じて海外当局にも知り合いを作ることができたら、海外ロースクールへの出願書類の作成時において「私は、日本政府で働いて、こんな公益的な問題意識を持っています!」ということをアピールすることで、他の日本人弁護士の出願者との間で差別化を図ることができそうである(これも、ほぼ確実!)。

「応募してみたい!」と考えてみたところで、今後は「自分が求める人材の要件を満たしているかどうか?」が気になってくる。「この分野の実務経験がある弁護士が望ましい」と言われても、これまで公益通報/内部通報の仕事に携わってきた弁護士なんてほとんどいないだろう。それに「国際機関対応ができる」という職務内容は魅力だが、「じゃあ、自分にひとりで海外当局とコミュニケーションを取れるほどの英語力があるか?」と言われてしまうと、尻込みする弁護士が大半だろう(そこまで高度な英語力があるならば、すでに実務でバリバリ活躍しており、もはや官庁にフルタイムで出向するような余裕はないだろう)。

「これから学びたい」というインプット目的でも、このポジションの応募者としての資格があるのだろうか?
 また、担当する企画・立案業務が制度改正にまで広がっていく可能性はあるのだろうか?

その辺りを聞いてみたくて、消費者庁参事官(公益通報・協働担当)付の企画官に取材を申し込んでみたところ、快くOKをしていただくことができた(安達企画官、どうもありがとうございます!)。

次回は、その取材結果を報告する記事をアップする予定である。

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