『金融法務の理論と実践ー伝統的理解と先駆的視点』(片岡総合法律事務所編)を読んで、「スキーム構築、契約交渉から不履行時の回収まで一気通貫で代理できるファイナンス弁護士はカッコイイ」と思った話
片岡総合法律事務所が、有斐閣から『金融法務の理論と実践 伝統的理解と先駆的視点』を発刊した。本書では、第1編でホールセール取引が扱われて、第2編でリテール取引が扱われている。
片岡総合と言えば、私が、弁護士4年目に経済産業省に出向した時(2002年)から、既にレンダー側のリーガルアドバイザーとしての高い評判を確立しており、私が、弁護士6年目に日本銀行に出向した時(2004年)から、既に「決済と言えば、片岡総合」と、真っ先に名前が思い浮かぶ法律事務所だった。
2002年7月に経産省に着任した私が引き継いだのが、企業法務研究会(担保制度研究会)の事務局だった。故高木新二郎弁護士が座長となり、ファイナンスに関連する最先端の研究者と実務家が委員に集められていた。民法学者からは、東大から内田貴教授(法務省に行かれる前)、道垣内弘人教授、森田宏樹教授が参加され、民事手続法学者からは、山本和彦教授、田頭章一教授が招かれていたところ、弁護士業界からは、証券化の専門家である小野傑弁護士(当時はまだ「西村総合法律事務所」という名称だった)と債権回収の経験が豊富な専門家として、片岡総合のネームパートナーのひとりである小林明彦弁護士に委員が依頼されていた。
「『不動産担保』から『事業の収益性に着目した資金調達』へ」という副題が付けられた研究会においては、在庫や売掛金を担保とする融資スキームにおいて「実際に債務不履行が起きた場合には、実務上、どうすれば執行できるか?」という担保実行段階の実務的な質問について、小林弁護士がひとりで対応されていた。
片岡総合のもうひとりネームパートナーである片岡義広弁護士に対しては(経産省出向の次に私が2004年から出向していた)日本銀行でリテール決済を担当する部署が厚い信頼を置いていた。法的な根拠が曖昧なままに、電子マネーやコンビニの収納代行が普及し始めていた当時、片岡弁護士は、プリカ法(前払式証票の規制等に関する法律)の立法過程における議論も踏まえて、規制当局や(紛争になった場合に)裁判所をも納得させられるだけの合理性を備えた精緻な分析を提供してくれていた。
私が、本書に驚かされたのは、執筆者一覧にネームパートナー2人の名前が見当たらないことだった。まえがきには「本書の企画及び執筆については、当事務所の実質的な共同創業者である片岡義広弁護士及び小林明彦弁護士からの総合的な助言を得ている。多くの善き価値を社会にもたらすために精緻な法的探究を真摯に続ける両名の精神は、本書の執筆者全体に受け継がれている」と述べられている。
片岡総合のウェブサイトを見てみると、そのリーガルサービスは、一部のスタープレイヤーによって行われているものではなく、チームとしての対応がなされていることが示されている。
日本の法律事務所業界には、クライアント企業に対するカリスマ的な魅力を持った創業弁護士が発展させてきた中規模の法律事務所がいくつも存在しているが、その多くは、創業弁護士がプレイヤーとしての最盛期を過ぎる年齢に差し掛かっているにもかかわらず、後継者の育成が間に合わずに、事業承継の課題に直面している。そんな中、いち早く組織としての品質管理と人材育成に取り組んできた片岡総合は、事務所の世代交代に成功していることを本書からも理解することができた。
日銀総裁の10年振りの交代を控えて、新体制において金融緩和策が継続できるのかどうかが取り沙汰されているところに、米国の銀行破綻や欧州の金融コングロマリットの経営不安が起こり、金融環境の先行きは不透明になってきている。
このような時期においては、金融法務の「理論」だけでなく、バブル崩壊後の不良債権処理やリーマンショックを通じて、債務不履行時におけるトラブル対応という「実践」面での豊富な経験を有する片岡総合に対して、レンダー側からのリーガルサービスのニーズはより高まっているように感じられる。