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『ひまわり求人』を読む(9)八雲を題材として

ひまわり求人ナビは、検索結果の一覧だけしか見ない利用者が多い。そのため、既に評判を確立している事務所や企業であれば、掲載していることだけで意味があるが(「『ひまわり求人ナビ』を読む(5)」参照)、新しい法分野においてクライアントからの信頼を獲得し始めている「尖った事務所」が見落とされがちである。

現在のひまわり求人に掲載された情報一覧の中では、八雲法律事務所が、そのような「尖った事務所」の代表格と言える。

前回は、のぞみ総合を取り上げたが、のぞみ総合のパートナーの結城大輔弁護士は、一般社団法人リーガル・リスクマネジメント研究機構の代表理事も務めておられる。その研究機構において、2021年4月に開催して大好評を博していたのが、八雲法律事務所の代表である山岡裕明弁護士による「DX時代に企業が晒されるサイバーリスクの実態」と題するウェビナーである。

山岡弁護士については、まず、その経歴において、米国のカリフォリニア大学バークレー校でMaster of Information & Cybersecurityの修士号を取得しているのが目を引く。インターネット上に掲載されている日本公認不正検査士協会の藤沼亜起理事長との対談記事においては、山岡弁護士が、バークレー校の情報大学院において、米国空軍のエンジニアやマイクロソフト社のエンジニア等のコンピュータサイエンスのプロをクラスメイトとしながら、元FBIの捜査官によるサイバー犯罪の実践的レクチャーや、オバマ政権時代のセキュリティ担当官の講義を受けて学んでいた様子が語られている。

藤沼インタビュー

ひまわり求人における「その他取扱事件の特色等」と「事務所アピール・特色」にも、代表弁護士の経歴を活かした専門分野が紹介されている。

ひまわり取扱事件
ひまわり事務所の特色

M&Aやファイナンスに関する企業法務のマーケットは、50期代までの弁護士によって、既に、高い参入障壁が構築されているため、60期代以降の若手にとっては、新規参入がきわめて難しくなっている。そのため、これら法分野の専門家になりたいならば、「実績がある事務所に弟子入りして、スキルを磨く」「引退するパートナーからクライアントを相続する」しか道がないようにも思われていた。

しかし、サイバーセキュリティのような新しい業務分野については、60期代の弁護士にもまだ第一人者になる余地が残されている、ということを生きた実例として示してくれたのが八雲である。

それでは、なぜ、八雲は、新規分野でクライアントの信頼を勝ち取ることができたのであろうか。事務所のウェブサイトを眺めてみると、「内閣府」「サイバーセキュリティ戦略本部」「タスクフォース」といった文言が目に入る。

事務所HP山岡の職歴

従来型の企業法務弁護士のように、民間企業の間の利害調整を担う純粋なビジネス活動を行っているのとは異なり、サイバーセキュリティは、国際的な犯罪から日本企業を守る公益性もある活動であり、政府も、動きの速い分野において、積極的に弁護士のノウハウを活用して自らの政策立案に活かそうとしている姿を想像することができる。

このような最先端の事務所は、どのようなスペックの人材を求めているのだろうか。ひまわり求人の記載を見る限り、特に、エンジニアとしてのバックグラウンド等の特別な知見を求めているようには思われない。

ひまわり応募資格

成長途上にある事務所においては、エンジニアの素養があれば、それを活かせることは確実だろうが、それだけでなく、語学力があれば、それを活かした活躍ができるだろうし、そのような特殊技能がなくとも、地頭がよい若手弁護士であれば、事件を通じてOJTで成長していくことが期待されるのだろう。

ひまわり指導体制

なお、八雲においては、給与水準が十分な水準で明示されているだけでなく、個人事件の受任も許容されているとのことである。

ひまわり給与
ひまわり個人事件の受任

企業法務の道を究めるに知的好奇心を抱きながらも、「困っている人の力になれる職業」としての弁護士像への憧れを心のどこかに保持している者にとってみれば、親族や友人などを経由してきた相談を、採算度外視で受けるためにも、個人事件の受任の許容はありがたいところである。

インハウスを

ひまわり求人記載のとおり、インハウスや任期付公務員から法律事務所への転向を検討している若手も含めて、足許での十分な経済条件を確保しながら、インターネットに関連する新規分野を開拓してスペシャリストとなることを目指すための魅力的なキャリアパスが存在するのは、このような「尖った事務所」にあるのかもしれない。そう思わされる求人広告だ。

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