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新人弁護士との対話:実務家が参照する民事訴訟法の概説書→伊藤眞『民事訴訟法[第8版]」』

新人弁護士
「10月の司法研修所での講演をありがとうございました。二回試験を終えて無事に弁護士登録をできました。」

西田
「二回試験の直前の大事な時期にもかかわらず、『実務に出てからの不安』を煽ってしまうようにことになっていたら申し訳なかったなぁ、とあの後、反省していたので、ホッとしたよ。」

新人弁護士
「講演内容をnoteにアップされるのかと思ったら、まったく更新されていませんね。」

西田
「そうなんだよね。研修所での講演の後、スポットで受けていた弁護士業務が忙しくなってしまって、noteを更新する余裕がなくなってしまっていた。今度、時間を見付けて振り返りの記事を書いてみるよ。」

新人弁護士
「今日は、『弁護士になってから、どんな本を参照しているのか?』を伺いたいと思っています。民事訴訟法では、誰の本を参照されていますか?」

西田
「ぼく自身は、いまは訴訟代理人をしている事件はないけど、ちょうど、改訂版が出たばかりなので、民事訴訟法関連で調べものがあれば、真っ先に参照するのは、伊藤眞『民事訴訟法[第8版]』(2023年、有斐閣)になるね。」

新人弁護士
「西田先生は、以前にも、noteで、伊藤眞『民事訴訟法への招待』(2022年、有斐閣)を取り上げて、「実務家から最も信頼されている民事手続法の研究者」と紹介されていましたね。」

西田
「そうだったね。『民事訴訟法への招待』は、通読に適した本であるのに対して(『民事訴訟法[第8版]』を手に取って)この分厚さの本を通読できる人は、弁護士の中にもいないと思う(笑)。実務で扱う事件において問題となるテーマについて、検討やリサーチを次にステージに進めるために何かヒントになることはないか?と思った時に、索引からキーワードを見付けて該当箇所を開いて、その前後を拾い読みをする使い方がメインになるね。」

新人弁護士
「それは、『準備書面でこの本を引用すれば、裁判官に対する説得力が高まる』という意味で有用性が高い、という意味ですか?東大で教鞭を取られた法学の教員が執筆した本だと、裁判官が教え子の可能性が高いとか、法制審議会の民事訴訟法部会のメンバーだった研究者が執筆した本だとその説に権威がある、とか?」

西田
「う〜ん、そういう要素も否定はしないけど(笑)、シンプルに、頻繁に改訂してくれていて、実務における最新の問題意識が反映されている、という点が一番大きいかな。」

新人弁護士
「有斐閣の本の帯にも『最新の学説・判例・文献をフォロー』と書いてありますね。」

西田
「帯に一言できれいにまとめて書かれたキャッチフレーズだと、かえってイメージが湧きにくいかもしれないね。例え、『民事訴訟法[第8版]』の653頁からは、『仮執行宣言』が取り上げられている。」

新人弁護士
「仮執行宣言については、まともに勉強したことがありませんでした。」

西田
「ぼくもそうだし、殆どの弁護士がそうだと思うよ。実際、仮に被告側代理人で、『仮執行宣言を付けられることを避けたい』という立場で訴訟活動をするとしても『正面からそれを争ったら『主張が弱いと自覚している』と思われてしまうかも』という懸念もあるので、争点にしにくいよね。そんなマイナー論点だけど、『民事訴訟法[第8版]』には654頁の注307で、東京地裁の裁判例に対する痛烈な問題提起もなされている。」

新人弁護士
(『民事訴訟法[第8版]』654頁を開きながら)「『仮執行の必要性が認められなければならない(259Ⅰ)。』『必要性は、債権者と債務者の利益を考慮して決められる相対的概念であるので、仮執行によって債務者が回復しがたい損害を被ること、判決が上級審で取り消される蓋然性などと併せて、立担保を仮執行の条件とするかどうか、仮執行免脱宣言を付すかどうかなどを総合的に考慮して判断される。』に付されている注307ですね。」

西田
「そう。注307に『金銭債権は、財産上の請求権の代表例であるが、それが通常人の資力を遥かに超える巨額のものであり、債務者やその家族の生活を破綻に導くことが容易に想定されるときには、上級審における判決の取消可能性も含めて、慎重に考慮すべきであろう。東京地判令和4・7・13判例集未登載参照。』とあるけど、この『東京地判例令和4・7・13』って何の事件だと思う?」

新人弁護士
「すぐには思い付きませんが、請求認容額が巨額な裁判例ですよね?」

西田
「そう。東京電力の旧経営陣に対する代表訴訟で13兆3210億円の損害賠償を認めた東京地裁の判決だよね。」

新人弁護士
「13兆円、、、確かに、個人が支払える金額ではありませんね。」

西田
「こういう問題にきちんと目を向けている研究者は稀有だよね。また、注307は、それに続けて、逆に『少額であっても』として、支払い能力にまったく問題がないのに、預金債権に対して嫌がらせで強制執行がなされた場合には銀行取引約定書上、期限の利益が当然に喪失させられてしまう、という問題にも触れている。」

新人弁護士
「改訂版では、制度改正が済んだものの解説だけでなく、現制度に対する実務家からの問題意識についてもアップデートがなされているのですね。」

西田
「これだけ権威のある研究者になりながらも、通説・裁判例を擁護する側に回るのではなく、実務で本当に困っている人々に寄り添う方向で批判的精神を保ち続けて研究を続けている、そして、その問題意識を著作に表してくれるのは本当にありがたいよね。」


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