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消費者庁(公益通報担当)に出向したら、「弁護士としてのキャリアにどのようなプラスαが得られるか」を考えた話

就活生(司法修習予定者)と話していると、「出向」への興味が高いことに気付かされる。確かに「複数の職場での就業経験を持つ」ということ自体に社会科見学的な価値は存在する。但し、終身雇用を前提としない弁護士のキャリアにおいて「本業たる弁護士業務をサボってまで、やる価値がある業務ですか?」という問いに対する自分なりの回答をもって出向に臨みたいところである。

(ぼく自身がアソシエイト時代(2007年)に、日本銀行への出向の期間延長を所属事務所に打診した際に、当時のマネージングパートナーから「そんなことをいつまでも続けていたら、弁護士としての『つぶし』が効かなくなるぞ!」と脅されたことを思い出す。当時は「なんだよ、『つぶし』って!」と反感を抱いたか、今、振り返ってみれば、嫌味な表現ではあっても、親切心から出た警告であったことが理解できる。)

前回記事で述べたとおり、消費者庁の公益通報担当の任期付任用のポジションに興味を抱いたため、アポイントを取って、担当企画官にお話を聞きに行った。消費者庁は、合同庁舎4号館にあり、霞ヶ関駅から「三年坂」を上った先にある。


ご対応いただけたのは、企画官の安達ゆりさんと、任期付任用で働いている、政策企画専門官の蜂須明日香さんのお二人である。


「任期明けのキャリアへの『プラスα』」に関心があるぼくにとっては、蜂須さんの「政策企画専門官」という、ちょっとカッコイイ肩書にテンションを上げさせられた。というのも、転職活動においてはレジュメ(履歴書や職務経歴書)が重要になる。ぶっちゃけて言えば、「何をやってきたか?」よりも先に、まず、「どこでどういう肩書で働いていたか?」という経歴に興味を持ってもらえなければ、それだけで門前払いされてしまう。逆に言えば、「へえ〜、この人、こんなところでこんな肩書で働いていたんだぁ。一体、どんな業務を担当していたんだろう?」という関心を抱いてもらえたら、第一関門突破、である。

肩書の次に気になるのは、業務内容である。ぼくが、聞いてみたいと思ったのは、以下の3つのテーマである。

第1:制度改正の検討はするのか?有識者会議を開いて事務局を担当するのか?
第2:海外関連ではどのような業務があるか?入口段階でどの程度の英語力が求められるか?
第3:弁護士らしい分析業務はあるか?

まず、「第1:制度改正」については、安達さんより、公益通報者保護法の改正法には、附則で「施行後3年」を目途として改正法の規定を検討して、「その結果に基づいて必要な措置を講ずる」ものとされていることを教えてもらった。

そのため、来年度には「公益通報制度の在り方にかかる検討会」(仮称)」を立ち上げたいとのことである。

自分自身の経産省出向経験(2002年〜2004年)を振り返って、ぼくは、

「他分野における優れた先輩方との人脈を作りたいならば、役所における研究会の事務局を担当すべきである!」

という持論を持っている。

弁護士業務にも「営業やマーケティングが大事」と言われるようになったが、企業法務の世界においても「人脈作り」は超重要である。ここでいう「人脈」というのは、「異業種交流会で名刺交換した」とか「接待ゴルフで一緒にコースを回った」のように「軽い時間」や「楽しい場面」の共有だけで育てられるわけではない。

一緒にプロジェクトを担当して、関係者の利害が対立する論点では意見が異なる立場を代表して代理戦争をしなければならない場面を経験しながらも、落とし所を探って一緒に知恵を出し合い、出身母体の関係者を調整してもらうことで、その結果をなんとかとりまとめる

という「重たい時間」や「厳しい場面」を共有することで生まれる信頼関係が最も大きな人脈になる(とぼくは考えている)。

役所の検討会には、その論点を議論するために最も相応しい国内有数の人物がメンバーに選ばれる。学者や弁護士であれば、当該分野の最先端の理論と実務に詳しい方に声がかかる。経済界からのメンバーも「検討会の論点を、所属団体に参加する企業に周知して意見を取りまとめることができる方(=それだけの信頼を業界内で得ている方が委員に選ばれて、それを補助するために幹部候補生の若手エリートが随行する)」となる。

例えば、前回、2020年〜2021年に消費者庁で開催されていた「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会」のメンバーを見てみると、弁護士からは、不祥事調査で超一流とされている国広総合法律事務所から五味祐子弁護士が参加されており、会社法関係の研究者からは、田中亘教授(東京大学)が参加されている。

安達さんによれば、「ESGの観点からの知見も得たいので、ガバナンスの専門家は増員したい」という着眼点も教えていただけた。ESG評価機関については、日本取引所グループのHPにもリスト化されたものがあるが、もし、こういった分野の方からも委員が選ばれるならば、通常の弁護士業務では作れない人脈を形成するチャンスへの期待が膨らむところである。

次に、「第2:海外関連」については、安達さんより、改正法には、附帯決議で「諸外国における公益通報者保護に関する法制度の内容及び運用の実態」を踏まえた検討を行うことが求められている、と教えていただいた。

外国の法制度の内容だけならば、公表されている英文資料を読むだけでも、一定の理解は得られるかもしれないが、「運用の実態」となれば、海外当局と直接にコミュニケーションを取らなければ、「実際のところ」は分からないのだろう。この業務は、大手法律事務所のアソシエイトでも、大企業のインハウスにも経験できず、「日本政府/the Government of Japan」に勤めている期間だからこそ、経験できるものであると言えよう(留学のアプリケーション用の資料を起案する際に役立つエピソードにもなるだろう)。

ここで心配になるのは、

じゃあ、入口段階(採用選考時点)で、どこまでの英語力を求められるの?流暢な英会話力が求められるの?

という点である。この点について、安達さんからは、

「応募要項に英語を記載したのは、『英語が得意な方には、その語学力を活かせる仕事をたくさんご用意できます』という意味に過ぎません。純粋な国内案件、日本語だけで対応できる業務もたくさんあるので、英語力は必須ではありません。また、部署内には、民間のご出身で英語が得意な方もいらっしゃるので、『英語をこれから学んでいきたい』という意欲がある方には、任期付弁護士や民間企業出身者からの英文添削のサポートも利用しながら、英語案件の実績を積んでいただくことも可能です。」

と教えていただけた。

最後に、「第3:弁護士らしい分析業務」については、消費者庁のウェブサイトに掲載されている「公益通報者保護制度」の「調査・研究」に関係するような業務も蜂須さんのような任期付弁護士が担当されている業務の一つであることを聞かせてもらった。

さらに、次の法改正がなされる場合、直近の改正法(2020年改正、2022年施行)の施行対応として蜂須さんのような任期付弁護士が経験した逐条解説の執筆、法解釈を明らかにしたQAの改訂、事業者向け説明会なども担当すれば、任期明けに、もし、転職活動で法律事務所の採用選考を受けることになった場合でも、採用担当パートナーからは「これだけの質の高い業務を担当した弁護士ならば、うちの事務所に来ても大丈夫だろう」と安心させることができそうである。

そんなことに頭を回らせているうちに、消費者庁訪問の時間はあっという間に過ぎていってしまった。担当部署(消費者庁の公益通報者保護制度の担当部署)の業務の詳細については、Attorney’s MAGAZINEの2022年10月号に取材記事が掲載されているので、こちらをご参照いただきたい。安達さん、蜂須さん、お忙しいところ、お話をお聞かせくださいまして、どうもありがとうございました!


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